劇場公開日 2018年11月24日

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「心に残る映像」台北暮色 ごいんきょさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0心に残る映像

2019年1月29日
PCから投稿

 「恋する惑星」のストーリーを思い出せなくても、エスカレーターのシーンを思い浮かべない人はいないだろう。素晴らしい映画にはそういう記憶に残る名シーンが必ずあるものだが、この映画では高速道路のトンネルのシーンと歩道橋を走る二人のシーンの疾走感が強く印象に残った。まるで王菲(フェイ・ウォン)の主題歌が聞こえてきそうな感じだった。
 侯孝賢(ホウシャオシェン)と楊徳昌(エドワード・ヤン)の遺伝子を引き継ぐ映画と紹介されているが、私は王家衛(ウォンカーワイ)の遺伝子もちょっと入っているような印象を受けた。
 複雑に入り組んだ高速道路。どう交わっているのかよく分からない高架鉄道。それらの映像と同じように複雑きわまりない台北の街に生きる人々。彼らの日常を映画は淡々と描く。
 複雑な街を生きる人たちの暮らしは複雑なピースでいっぱいだ。主人公の女性徐子淇(瑞瑪席丹リマ・ジタン)は小鳥たちと暮らしてている。1羽は逃げ、1羽は残った。そして彼女にはしょっちゅう間違い電話がかかってくる。「ジョニーはいますか?」(映画の原題にもなっている) もう一人の主人公張以風(柯宇綸クーユールン)の車は何度もエンストを起こす。コミュニケーションの苦手な少年(黃遠ホアンユエン)にはピースがいっぱいある。壁に貼られた多数のポストイット。新聞の切り抜き。水たまりと自転車。
 徐々に彼らの現在の家庭環境や背景が明らかになっていくのだが、共通しているのは「離婚」や「別居」ということ。家族だと思っていた登場人物が他人であったり、他人だと思っていた人が家族だったりする。この3人の人生はちょっとした偶然から交わり合っていく。「距離が近づくと愛し方が分からなくなる」とうような台詞が出てくるが、この映画を象徴している台詞だと感じた。台北という都会で暮らす人たちの家族との微妙な距離感。それを維持できないのがこの3人だ。
 切なく、もの悲しい孤独な魂の姿が、入り組んだ台北の街と雨音を背景に描かれる。ピースはたくさんあるけれども、私にはそれらのピースを組み立てることはできなかった。いや、作者はそれを望んでいないのかもしれない。そんなに簡単に組み立てられるほどこの映画に描かれている人生は単純ではない。深い哀しみと切なさの残る映画だ。

「台北暮色」(原題 「強尼·凱克」)
2017年 台湾映画 監督 黃熙(ホアンシー)

ごいんきょ