「21世紀のルネサンス運動を期待!」聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア ケンイチさんの映画レビュー(感想・評価)
21世紀のルネサンス運動を期待!
まずは基本情報。
監督:ヨルゴス・ランティモス(1973年生、公開時44歳)
脚本:ヨルゴス・ランティモス
エフティミス・フィリップ(1977年生、公開時40歳)
製作会社:フィルム4
ニュー・スパルタ・フィルムズ
ハンウェイ・フィルムズ
アイリッシュ・フィルム・ボード
エレメント・ピクチャーズ
リンプ
制作国:アイルランド、イギリス
配給:A24(米)
カーゾン・アーティフィシャル・アイ(英)
ファインフィルムズ(日)
出演
・コリン・ファレル(1976年生、公開時41歳):スティーブン(父親)
・バリー・コーガン(1992年生、公開時25歳):マーティン(少年)
・ニコール・キッドマン(1967年生、公開時50歳):アナ(母親)
・ラフィー・キャシディ(2001年生、公開時16歳):キム(姉)
・サニー・スリッチ(2005年生、公開時12歳):ボブ(弟)
・アリシア・シルヴァーストーン(1976年生、公開時41歳):マーティンの母親
・ビル・キャンプ(1961年生、公開時55歳):マシュー(麻酔医)
すっごくインパクトのあるキャスティング!
ニコール・キッドマンの圧倒的な美貌は息をの飲むレベルだし、繊細で儚い印象の子役たちもキュート。アリシア・シルヴァーストーンの起用も話題性抜群です。
そんな中でもバリー・コーガンは決して忘れられない存在感!まだ若いのにちゃんと自分でコントロールしてこんな表情や仕草をしてるの?えも言われぬ不気味さは他で見たことない。
アメリカではA24が配給しているので、なんだかA24映画として扱われていることも多いですが、アイルランド・イギリス映画で、アメリカ以外の配給にはA24は絡んでいませんね〜。
そして、監督さんのこれまでの作品と違ってシュールギャグが廃され、非常にシリアスな作品。終始緊迫感が凄いです。
例えば序盤のうち、コリン・ファレルとバリー・コーガンは同性愛カップルなのだと思わせてますよね。そういうミスリードとか目眩しをやる監督さんなので、惑わされないようにしないとね。
さてこの作品が「アウリスのイピゲネイア」を翻案したストーリーというのは割と有名な話ですね〜。
ギリシャ神話悲劇を現代を舞台に表現するということで、欧米のキリスト教的価値観とかヒューマニズムでは割り切れない理不尽さとか不条理さがあるのは当然ったら当然。
そもそもギリシャ神話…ヘレニズムの宗教の規範である「ヒュブリスへの諫め」がある意味独特な考え方なのに、それを現代で再現すれば見てる方はそれだけで違和感を感じちゃいますよ。
それからギリシャ神話で描かれる「サクリファイス」という精神構造も、個人的には日本人的自己犠牲とは微妙に違うもののような気がしています。
そんなこんなをサスペンス仕立てで現代劇で再現したら凄いモノができちゃいますよ。
今思えば同じ監督・脚本家で作った『ロブスター』(2015)もそうですけど、この映画も最初から、見た人によって解釈が異なるように作ってあって、もはや作り手の意図はあまり意味がないんじゃないかな。
ギリシャ神話の翻案と言っても、アルテミス神に相当する存在や属性も出て来ないし、何ならイピゲネイアも出て来ない(強いて言えば弟のボブ君か、お姉ちゃんのキムと役割を分担?)し、バリー・コーガンの役所は強引に解釈すれば神託を受けた巫女?
なのかなぁ…。アガメムノン王とイピゲネイアのエピソード自体、複数のバージョンがあって、「聖なる鹿殺し」というタイトルが目眩しの1つになってる。
個人的には、終盤、自分が置かれている状況を受け入れた家族4人がどう振る舞うかって所がめちゃめちゃエグくて、ギリシャ悲劇の翻案作品として見事。このレベルでギリシャ神話をやってくれるなら、もっと他のも見たいです。
ギリシャ神話なんて映画だけじゃなく文学・絵画・演劇等々、今あるアートの大元の大元だし、天文学や占星術に限らずさまざまな学問分野の大元でもあるし、スポーツの分野でもオリンピックは切っても切れない縁があります。とっくの昔から欧米人に限らず東洋人であれ誰にとっても絶対的な王道。ルネッサンスな取り組みはもっともっとやって下さい!