「主人公トニーキャラは好きになれないけれど、その心情は手に取るように理解出来る秀作」ベロニカとの記憶 Ryuu topiann(リュウとぴあん)さんの映画レビュー(感想・評価)
主人公トニーキャラは好きになれないけれど、その心情は手に取るように理解出来る秀作
これ程、映画観賞中に、自然とため息が数多く出てしまう映画も珍しかったと思う。
何故なら、中年期の私には本作の主人公トニーの気持ちがとても良く理解出来るからである。
この作品の主人公は中古カメラの販売店を営む、初老のバツイチ男、トニーのお話だ。
本作では、このカメラと言う存在がまた、過去を語る上で都合の良い存在へと変化する。カメラとは人生の有る瞬間をそのままもぎ取り記録するものだ。
しかし、現実には人は自己の過去を振り返る時、過去の状況をそのまま正確に思い出す事は少ないのだと思う。
結構その時々の人の心情の有り様や、感情の変化で、実際に起きていた過去の真実の出来事とは違う形へと変幻自在に過去の出来事も変化させえてしまうものだ。
決して過去は、変えられないものではないと言うのが、本作の面白い点だ。
つまる処、人は自分が観たい世界感の中で生きている生き者なのだろうか?
それだからこそ、その時々に連想される物事は何時でも同じとは限らない。
そんな人間の身勝手な感情の本質と言うか、想いの中心を隠さずに描き出している点に思わず深い共感を覚える作品だった。
主人公のトニーがかつて好きだったベロニカと親友へ送った手紙がとんでもない結果を引き起こしていた事も知らずに、トニーは生きていた。
人は、過去を振り返る時には、過去は過去のきれいな思い出として記憶の隅しまって置くべきだろう。下手に過去の出来事を掘り起こすと知らずに済ませていた方が良い事が有ると言う、ちょっと心が痛むストーリー展開だった。
本作は若い頃のトニーが、ベロニカと親友に対する嫉妬が招いた悲劇を描いた作品であると同時に人間の本質って、実は中々変化しない事も示唆しているように思う。
そして、人はご都合主義にも陥る可能性が大と言う、人の心理の本質に迫る作品で面白かった!
出演しているキャストの芝居の素晴らしさと相まって思わぬ拾い物をしたと実感出来る秀作だったと私は思う!