「曖昧模糊・漠然とした不安が残る映画」ベロニカとの記憶 りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
曖昧模糊・漠然とした不安が残る映画
ジュリアン・バーンズの英国ブッカー賞受賞小説『終わりの感覚』の映画化。
引退し、小さな中古カメラ店を営むトニー(ジム・ブロードベント)。
離婚した先妻との間の娘スージー(ミシェル・ドッカリー)は臨月の大きなお腹を抱えている。
そんなある日、トニーのもとに見知らぬ弁護士から手紙が届く。
それは、かつて交際していた女性ベロニカの母親がトニーに日記を遺品として遺した、というもの。
しかし、ベロニカはその日記をトニーには渡さないという。
それを契機に、トニーには50年近い昔の青春時代のことを思い出していく・・・
というところから始まる物語で、主役はトニー。
ポスターなどではシャーロット・ランプリングも大きく扱われているので、彼女が主役なのかと思っていたけれども、重要な役ながら後半になってようやく登場する。
ということで、ここいらあたりはちょっと当てが外れた感じ。
映画はその後、トニーの回想によって、青春時代のトニー(ビリー・ハウル)とベロニカ(フレイア・メイヴァー)との恋愛関係や、トニーの友人エイドリアン(ジョー・アルウィン)との関係が断片的に描かれていきます。
エイドリアンは、後にベロニカと交際し、自殺してしまうのが、その原因や顛末をトニーは思い出せません。
思い出せないのか、思い出したくないのか・・・
ここいらあたりがこの映画の肝で、映画としてはどうにも隔靴掻痒。
思い出したくない過去の出来事を思い出し、心のわだかまりが氷解する・・・といった類の映画にも見えるのですが、もうひとつの面も。
もうひとつの面とは、エイドリアンが授業中にいう歴史観。
「過去に何かが起こった。それは確かに言えるが、誰がどういう理由でどうこうしたとは現在の視点からは何も言えない。過去に何かが起こった、としか言えないのが歴史だ」
つまり、現在の視点からみた過去の出来事は、みている者の視点によって解釈されて歪められているかもしれず、事実・真実は曖昧模糊。
トニーの(思い出せないのか、思い出したくないのかわからない)思い出した過去の記憶は、トニーにとって都合のいい過去の書き換え・・・
まるで、フィリップ・K・ディックのSF小説のよう。
映画では、エイドリアンの自殺の顛末も明らかになるのだけれど、それもトニーが思い出したこと、思い至ったことに過ぎず、真実ではないのかもしれない・・・
と、まぁ、なんだか「・・・」ばかりが多い感想になってしまったが、そんな曖昧模糊・漠然とした不安が残る映画でした。
なお、シャーロット・ランプリングは現在のベロニカ役で、その他、『ラースと、その彼女』『シャッター・アイランド』のエミリー・モーティマーがベロニカの母親役で回想シーンに登場しています。