劇場公開日 2023年11月17日

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「有終の美、クレイグのジェイムズ・ボンドの見応えあるアクション映画も、脚本と演出は未完成」007 ノー・タイム・トゥ・ダイ Gustavさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0有終の美、クレイグのジェイムズ・ボンドの見応えあるアクション映画も、脚本と演出は未完成

2021年10月19日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

ダニエル・クレイグ最後のジェームズ・ボンドという事で劇場鑑賞する。160分超えるスパイアクション大作の見応えに退屈せず観終えたものの、初出演の「カジノ・ロワイヤル」に見合う面白さは感じなかった。これは個人的に間の3作品を見逃している知識不足が影響している事と、前作「スペクター」から繋がるマドレーヌ・スワンとの恋愛部分に感情移入し難いハンディキャップの為であろう。クレイグ有終の美に花を添えるヒロインに魅力を感じないでは、この映画を本当の意味で鑑賞したとは言えない。その自覚の上での感想になる。

先ず良かった点は、タイトルバックまでのプロローグが非常に長いながら、演出的にも工夫されていたこと。開巻のマドレーヌが襲われる緊張感と能面のサフィンの不気味さが、凍てつく北欧の舞台にマッチしたサスペンスを作り出していた。そこからイタリア・マテーラに転換させて、ヴェスパー・リンドの墓の前で爆弾テロに会う衝撃から、岩山に張り付く洞窟住居の街並みで繰り広げられるカーアクションの迫力が素晴らしい。何十発もの銃撃に被弾しヒビが入る防弾ガラスが、氷結した湖面の前のシーンに繋がる。マドレーヌを信じきれないボンドの行為が、彼女のトラウマの秘密を想起させる巧みな演出。そしてタイトルバックなのだが、これが意外と素っ気ない。細菌兵器に関連したDNAとピストルをデザインするが、もっと遊び心と派手さがあってもいいのではないかと思った。
続くジャマイカから舞台をキューバに移してからのアクションもいい。CIAエージェントパロマと二人で科学者オブルチェフを救出するところでは、クレイグとアナ・デ・アルマスのコンビネーションが最適。今回の作品において俳優の魅力の点では、クレイグは勿論ながら、このアルマスが最も輝いていた。ヒロイン レア・セドゥは役柄上影のある女性の難役であり、サフィンのラミ・マレックは日本テイストの趣味をもつテロリストのチグハグ感が拭いきれず、後任の007のラシャーナ・リンチは対抗意識とユーモアがかみ合わず、それぞれに俳優の魅力や実力に見合っていないように感じた。Mのレイフ・ファインズとQのベン・ウィショーは極々普通。脇役では、ボンドの旧友フリックスのジェフリー・ライトが良く、裏切りの国務省役人ローガンのビリー・マグヌッセンと科学者オブルチェフのデビット・デンシックは、キャラクター表現が取り立てて印象に残らなかった。
各俳優の個性が今ひとつなのは脚本と演出の責任だと思う。今の世界情勢を反映させた細菌兵器を題材にした取り組みや、最終舞台を日ロの領土問題のある島に敢えてした作劇が、大掛かりなままで未消化であり、各キャラクターの細かい表現には拘りが少ないからだ。最後のクライマックスに繋げるためのストーリー構成には、逆行の筋建てをしたような作為が感じられ、物語の意外性の驚きと面白さが弱い。と言って、サフィンの秘密基地の枯山水や畳のある和室の日本びいきの必然性が能面だけでは、やはり違和感を感じざるを得ない。形だけの国際問題や多様性は、映画としての説得力を持たないと思う。
クライマックスの演出で勿体ないのは、ボンドの行動を追うばかりで、マドレーヌとマチルドの脱出シーンとのカットバックがないことと、ミサイル爆撃を強行するイギリス国軍とMI6の選択に至るまでの葛藤が描き切れていない事の二点。ラストは、もっとボンドの悲痛さが伝わる演出をして貰いたかった。全体の印象としては、タイトルバックまでの良さが進むにつれて少なくなり、アクションシーンに頼った007であった。

それでも、大作完成までのいざこざや公開までの苦難を考慮すれば、十分ではないが満足したのも事実。それに、ジェイムズ・ボンドそのものを体現したショーン・コネリー以来の逸材、ダニエル・クレイグのボンド映画をまだ全部観ていない余地がある。順を追って、またこの映画を楽しみたい。

Gustav
琥珀糖さんのコメント
2023年4月10日

お邪魔します。

ダニエル・クレイグはボンド役のスターの中で一番好きです。
人間的な感じが好きです。
実は私も今回のマドレーヌ役のレア・セドゥに魅力を感じませんでした。
アナ・デ・アルマスのように敏捷な人が、ボンドガールには良いですね。

琥珀糖