「ダニエル・ボンドは永遠に」007 ノー・タイム・トゥ・ダイ 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
ダニエル・ボンドは永遠に
『ゴジラvsコング』『ブラック・ウィドウ』、またもや延期となってしまった『トップガン マーヴェリック』…。
コロナの“被害”を受けた作品の中でも、本作は一際。
それでなくとも、製作スタート時点から配給会社変更、監督交代劇、主演俳優の大怪我…。そこにコロナ。何か呪われているのか…?
当初の公開予定は2019年11月だったが、2020年4月→同11月→2021年4月と、4度も延期。予告編も悲しくなるくらい何度見た事か。
待たされ焦らされ、待たされ焦らされ、待たされ焦らされ…
気付けば、前作から6年…。
やっと、待ちに待った遂にこの時が!
シリーズ25作目にして、
ダニエル・ボンド、最後の任務!
いつもながらの見終わった一言感想。
感無量…。
さて、ここから無駄に長いレビューにさせて頂きます…(^^;
まず気になったのは、ガンバレル・シークエンス。
だって、本作でボンドは引退してるって設定だから、お馴染みのアレやらないんじゃないかと思ったけど、安心安心一安心。
やっぱりアレで始まらないとね。
プレ・シークエンスはシリーズ最長の約20分。
それもその筈。二段構成。
開幕直後はマドレーヌの幼少時代。このシーン、前作『スペクター』のあるシーンでマドレーヌが語っていたもので、よくそれを今回の敵と絡めたもんだなぁ…と、感心。
やがて少女は麗しい大人の女性となり、命の危機もあったが、愛する男性と共に。
その男もこれまで幾度も激務や生死の狭間もあったが、愛する女性と共に。
マドレーヌとイタリアのマテーラで引退生活を送るボンド。
時間は幾らでもある。
その前にボンドには訪ねる場所が。
ヴェスパーの墓。
今も愛している。が、過去に別れを告げ、未来(マドレーヌ)へ。
…しかし、過去からは逃げられなかった。
そこで見つけてしまった。あの“タコさんマーク”…。
壊滅していなかった敵の襲撃。
でも、それよりボンドを苦しめたのは、マドレーヌの裏切り。
彼女の父親は奴らの仲間。
マドレーヌは一切の無関係と何か話を打ち明けようとするが…、ボンドは聞く耳持たず。
2人の別れ。
幸せは束の間。
てっきりあれから何年も過ごしたのかと思ったら、あの直後の事。
そして、5年後…
事の発端は、何者かによる一人の細菌科学者の誘拐。
ジャマイカで静かに暮らすボンドの元へ、長年の友人であるCIAエージェントのフェリックス・ライターが訪ねて来る。訪問の目的は言うまでもなく、科学者の救出依頼。
“無所属”の今のボンドだから出来る任務。
厄介な代物である事は承知だが、旧友たっての依頼を受ける事に。
まず、科学者救出の僅かな手掛かりを追って、キューバへ。そこであの因縁のスペクターの影が纏わり付く…。
そこで掴んだ謎の“ヘラクレス計画”。人のDNAを操作出来る計画で、悪人の手に渡り組み換えれば、恐ろしい兵器にもなる。それが狙われた。
そして、それにはMI6やMが何か関わっていた。
その渦中で、マドレーヌと再会。
今度こそスペクターと決着…いや、思わぬ敵が立ち塞がる。
ボンド最大の危機、試練、最後の闘い…。
フィナーレを飾るに相応しい、迫力と重厚感たっぷりのアクションと、エモーショナルなドラマ!
恒例プレ・シークエンスはマテーラでのカー&バイク・アクション。ボンドカーことアストンマーティンが大活躍!
キューバでは、2人のボンドガール…いや、“007”とボンドガールが華麗なアクション。
“ヘラクレス計画”を巡って対立する元上司と部下。
二度と会う事は無かったと思ったボンドと獄中のブロフェルド。消えぬ憎悪。
今回の黒幕とマドレーヌの関わり。
ボンドをも翻弄する。
クライマックスの舞台は、日本では絶対インポッシブルな北方領土近海の島。スリルと各々の思惑、感情が交錯。
そして、ボンドとマドレーヌの愛…。
歴代最長の15年。
さすがに50歳を超え、就任したばかりの『カジノ・ロワイヤル』と比べると身体のしんどさは目に見えて分かる。
それが人間味を感じる。
歴代ボンドではあまり描かれなかった、ボロボロに傷付き、悲しみ、苦悩…。
それが人間臭さを感じる。
それら全てを引っ括めて、全く新しいダニエル・ボンドだった。
それを体現したダニエル・クレイグ、最後まで魅せてくれた。
身体を張ったアクションも、熱い演技も。
M=レイフ・ファインズ、マネーペニー=ナオミ・ハリス、Q=ベン・ウィショー、タナー=ロリー・キネアーらレギュラーメンバー。やはりこのメンバーが再び集い、一丸となってボンドをサポートしてこそ!
『慰めの報酬』以来のフェリックス=ジェフリー・ライト。彼にも見せ場が…。
前作『スペクター』から続投のブロフェルド=クリストフ・ヴァルツとマドレーヌ=レア・セドゥー。ヴァルツは前作の総黒幕の存在感から異様な不気味さへ。セドゥーはボンドガールというよりヒロイン…いや、運命の女性という魅力をさらに増した。
新キャラは、3人。
まず、007。…え? 007? そう、007。
ボンドが去り、穴が空いた“007”に新なエージェント。ノーミ。敏腕で、先輩にも勝ち気。“007”は永久欠番と思ってた?
キューバでボンドに協力。新米エージェントのパロマ。任務開始前は頼り無さげだけど、いざ任務開始したら大したもの。しかも、抜群の戦闘能力。クレイグと『ナイブズ・アウト』でも共演したアナ・デ・アルマスちゃんが魅せるドレス・アクションがキュート&美しくし過ぎる~! 本当に訓練3週間? 出番僅かなのが残念!(スピンオフ希望!)
今回の敵は、サフィン。
彼の目的の始まりは、復讐。
家族をマドレーヌの父親に殺され、その報復としてマドレーヌの母親を殺害。が、氷の海に落ちたマドレーヌを助け、トラウマを与えた。
スペクターによるヘラクレス計画を横取りし、逆にスペクターを抹殺するという頭脳派。
それどころか、人類を標的にする狂気も…。
ラミ・マレックが抑えた演技で悪役を怪演。
まあ確かにサフィンはとんでもない事をやってのけた。
家族を殺された少年が復讐を達成した。
ボンドさえ出来なかったスペクターの壊滅を果たした。
しかしその先に辿り着いたものは、どのイカれた狂人と同じもの。
こういう奴らの企みを阻止する為に、ボンドがいる。
宣伝では最凶の敵なんて触れ込みだが、思ってたより小物。ダニエル・ボンドでは、愛着度でブロフェルド、次はル・シッフルとシルヴァだったかな。
監督はキャリー・ジョージ・フクナガ。
ドラマ作品が多いこの監督にとって、大作アクションは初めて。見事な手腕を発揮。シリーズ最長の2時間40分超えではあるが、じっくりと見れた。
また、監督は日系アメリカ人。能面、着物風服、庭園、畳、正座…監督がこだわったという和のテイストが嬉しい。
スケール感あるロケーションと映像。
それを盛り上げる初参加のハンス・ジマーの音楽。
歴代最年少で担当のビリー・アイリッシュによる主題歌は悲壮感漂う。
なるほど、悲しい訳だ…。
大抵ボンド映画は苦闘であっても、バッドエンドで終わらない。
ところが、本作はまさかの…
賛否両論ありそうだ。
だって…
これじゃあ『女王陛下の007』の逆バージョン。
しかし、思い切った事をやったとまたまた感心もした。
マンネリ打破で開始したダニエル・ボンド。それは最期まで。
あの感動のラストは、彼への最大最高の称賛。あまりにも悲しいが、これ以上ない。
これまではプレイボーイ・スパイ。が、ダニエルが演じたのは、一途な愛に生きた男。
マドレーヌが娘に父の事を話すラストのこの台詞、シリーズの名台詞に目頭熱くなった。
「ボンド、ジェームズ・ボンド」
エンディングの最後に“リターン”の文字。
でも、これでダニエル・ボンドとお別れと思うと本当に寂しい。
これから10年、20年と経ち、歴代ボンドたちと語り継がれるだろう。
ダニエル・ボンドは永遠に。