「傑作『女王陛下の007』のリスペクトとリメイクと総括」007 ノー・タイム・トゥ・ダイ ミラーズさんの映画レビュー(感想・評価)
傑作『女王陛下の007』のリスペクトとリメイクと総括
個人的に007のベスト映画の一つである『女王陛下の007』を強力にリスペクトして現代風要素を交えてリメイクした作品。(結論ですねー)
『女王陛下の007』は公開当時や80年代くらいまで不当に評価の低い記述が多くて近年にクリストファー・ノーラン監督などがリスペクトを表明して強く再評価された印象です。ボンド小説を読んでいるマニアには好評だったと記憶しているが、4代目のティモシー・ダルトンもボンド映画のベストの一つとして挙げていた。
かなりのネタバレありです
本作でボンドを引退するダニエル・グレイクと007再生職人のマーティン・キャンベル監督でもう一本スタンダードな007も見たかったのも本音ですが。
(ダニエルボンド映画は連続性が強い異色シリーズで本作はともかく異色度が強いので)
ダニエル・グレイクのボンドはいつも因縁や過去を引きずるシリーズになっていて今回も冒頭の出来事から映画の007のフォーマットとは違う導入(俯瞰撮影がポイント)で始まり今回は何と2回も約10年・5年と年月が切り替わる!設定になっている。
ボンドとマドレーヌがヴェスパーの墓参りに訪れた土地での背景に流れる音楽が『女王陛下の007』の主題歌でルイ・アームストロングが歌う「愛はすべてを越えて」のアレンジが流れてくるところから感のいいファンなら気付く過去作へのリスペクトとこれからの展開などに期待が膨らむでしょう。
ここでもボンドは失った恋人と敵に囚われて重大な判断ミスをする。
同時にマドレーヌも出生と過去に囚われている念の入れよう。
墓地から映画にかけての活劇アクションは、キャラの心情と絡めながらキレのあるアクションで素晴らしい。
駅でのマドレーヌとの別れの後、主題歌に入るメインタイトルが007の第一作目『ドクターノウ』のグラフィックデザインを思わせるところなど、色々歴代の作品に寄せてリスペクトされている。
細菌研究所をスペクターが襲撃してウィルス的なナノマシンを奪い企むところも『女王陛下の007』を踏襲しており、しかも偶然だがコロナを連想される今日的な題材になっている。
そういえば、ナノマシンが映画のマクガフィン的題材になるのは、2001年の『カウボーイビバップ 天国の扉』がとても早かった印象
今回はボンドが使う車も歴代でもっと登場回数の多いアストンマーティン DB5やおそらく『007 リビング・デイライツ』以来?となるアストンマーティンV8 などの車(DBSは出てなかったと思う)や歴代のMの肖像画が同時したりと更に過去作へのリスペクトが繰り返えされる。
そういえば、屋外でのMと密約する場面でも『女王陛下の007』のメインタイトルが流れていたな。
それにより本作でボンド役を引退するグレイク版007の総括的内容と新機軸である女性007やボンドの子供と次のリブートの布石でもあるボンドの死を観客に提示している。
そういえば、本作で女性007の登場が発表された時は、ネットで一部のミソジニーを拗らせた連中から猛反発があってウンザリした記憶があり、過去にもボンドと対等な女性エージェントが度々登場してる事も調べず、近年の女性アクションも知らない層が多いのだなぁと感じた。
レギュラーメンバーのQの出番と現代解釈な私生活もチラッと見せるのも良い。
気になるのは、アクションやロケーションは007共通で全体的にスケールも大きく見せ場も多いのだが、作戦内容や行動が結構雑で、キューバや敵のアジトである島での場面など行き当たりばったり過ぎる。キューバで脱出の算段がライバルの飛行機を奪って行くなど、都合の良い展開が多い。(しかも裏切り者がその飛行機を再利用するとは!?)
女性007もノルウェーでの場面で窮地のボンドを助けると思いきや!コトが終わって現れる扱いは設定と作劇からして微妙。(二人のちょっとしたライバル心とバディ感が以外と面白いけど)
スペクターに復讐する黒幕でもあるラミ・マレックの掘り下げと行動も?な点が多くてやっている事がトンチキ過ぎる。ボンドの娘に執着があるよう見えて簡単に手放すし、逃げたと思ったら何故かまだ島に居たりと一貫してない。ラミ・マレックの無駄遣い。
アジトである島も、デザインは良いのにもう少し場所を活かしてアクションに取り込んで欲しかった。結構同じ場所をボンド達が行ったり来たりして正直もたつく。
個人的には予算と時間の関係か島を縦断している鉄道がチラッと見えたのでそれを活かしたアクションがあると期待したらなかった・・(歴代のボンド映画には鉄道内での格闘やアクションがあった)
マレックとの格闘対決によってボンドに更なる宿命と因縁を植え付けて追い詰める作風は、ダーク過ぎて、カタルシスも無くてボンドの死によっても浄化するしか無い状況に追い込むのはやり過ぎかも
でも『女王陛下の007』を強力にリスペクトして現代風要素を交えてリメイクした作品として、エンドクレジットに主題歌「愛はすべてを越えて」がフルで流れるだけでご機嫌になって許してしまうのです。
『女王陛下の007』と並ぶ異色の007映画として必見。
追伸
以前流通していた『女王陛下の007』のLDソフト版だとエンドクレジットが終わった後の暗転場面に単体で主題歌「愛はすべてを越えて」が流れてラストの余韻を深めていたのを思い出す。
版権の関係かDVDソフト版に無かったけど・・
ちなみに個人的007ベストは
1『女王陛下の007』
ニューシネマタッチで冒険の終わりを現代の悲劇として見せる
2『リビング・デイライツ』
ハードでキレのある演技のダルトンボンドの見せ場と趣向を凝らしたアクション
3『カジノ・ロワイヤル』
冒頭のから仕掛けてくるグレイクボンドの鮮烈なデビュー作
4『コネリーボンド全部』
どれもハマり役のコネリーと雛形的傑作揃い
それ以外だと
『消されたライセンス』
もっと見たかったダルトンボンドと飛行機をヘリで吊るす導入部が最高!
『私を愛したスパイ』
ボンドカーと悪役が揃った良作
『ユア・アイズ・オンリー』
ムーアボンドのシリアス活劇と共演のトポロルのアクセント
『ゴールデン・アイ』
チンピラみたいブロスナンボンドとショーン・ビーンの意地の張り合いとオナトップが魅力
『トゥモロー・ネバー・ダイ』
ミシェル・ヨー姐さんが素晴らしい職人ロジャー・スポティスウッド監督のテンポのいい良作