「JAMES BOND WILL RETURN」007 ノー・タイム・トゥ・ダイ N.riverさんの映画レビュー(感想・評価)
JAMES BOND WILL RETURN
待ちに待った1年半余り。
いったい何度、お預けを食らったことか。
のっけの俯瞰映像から、アレ、これはウェットだぞとビシバシ感じた本作。
いつものクールかつソリッドでキレキレのアレじゃない、ということで、ただごとじゃないと胸が騒いだ。
それもそのはず、すっかり引退したボンドの行動の大半にバックアップはナシ。
場合によっては丸腰に近く、自身の身さえ守れば済むというわけでもない、ハンデ戦の連続。
そう、いつもの余裕がないというか、今回のボンドは全体的に押され気味なのである。
その負け戦臭に、始終イヤな予感は拭えなかった。
悪を食う悪に、なんとなく時事ネタを連想させるトンデモ秘密兵器。
(とはいえ、撮影時はきっとコロナなんて誰も想像していなかったろうに)
Qはコメディー担当に全フリなうえ、北方領土にロシアのマッドサイエンティスト。
ちょっと和風テイストもあって、最後は国際問題必至の海域侵犯やらなんやら。
これまでにないエンタメ重視のスケール感と、かつての定番の復活に、
ああ、これは、リセット回なんだな、と思った。
「ダニエル」ボンドが積み上げてきたものを崩しつつ回帰、
次にバトンするためキャンバスを白紙(ニュートラル)に戻しつつ
オールスターによる「お別れ会」なんだな、と。
(後日、故人の棺桶に思い出の品を入れて燃やす、葬る、にも似てるな、と思い当たる。本作という棺桶に、全盛りの定番と過去作オマージュ、そしてミサイルでのラストで葬る、60年の歴史すらリセットしかねない区切り作品かもと)
なので島へ上陸するあたりで、もう帰ってこないんだろうことは予感できてならなかった。
終わらないでくれー、と心の中で願いつつ、でももしかして、を願いつつ。
最後だからちゃんと見なきゃとコチラも意を決しつつ、鑑賞してしまった。
そして迎えたラスト。
正直、こんなに寂しい気分になるとは思いにもよらなかった。
ロスである。
(隣の外国人のお兄さん、ずびずび泣いてたし)
映像はこれまでのソリッド感は薄まって、あたたかみのある雰囲気が印象的だ。
それも孤高のボンドが、そうでなくなった世界だと思えばよくできている。
(今回はよく笑うし)
またカット割りではなく、ぐるんぐるんカメラを回して撮るアクションシーンが
秀逸だった。
あれ、やり過ぎると何がどうなっているのか分からなくなりかねないのに、
テンポ、構図(視線誘導)が本当に良くて、
状況に放っていかれることなく、一緒にジェットコースターに乗っているかのように楽しめた。
カメラマンもスタントもグレイグ氏も、ひたすらグッジョブである。
ダブルオーのひとつの歴史が終わった。
もう取返しはつかないが、これで良かったんじゃないか。
と、全作を通して振り返るし、あたう華々しき最期であり、
次回にこうご期待のリセット回だったのではないかと思っている。
ジェームスボンド・ウィル・リターン。
その日をまた待ちたい。