グレインのレビュー・感想・評価
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僕にとってこの20年で最高の映画
この映画は、日本人には難しいのだとおもいますが、イスラム教の聖典コーラン(クルアーン)18章『洞窟の章』を読めばすこし助けになると思います。モーセが小姓とともに旅する、謎の男に会い一緒に旅する...途中のいろんな出来事はコーランのエピソードをうまく使って居ます。13-14世紀の詩人ユヌス・エムレの「Breath or Wheart?」の真意が僕には掴みきれていないのですが、モーセは赤ちゃんの頃パピルスの船に乗せてナイル川に流されたはずですし、さまざまな象徴的な事柄の積み重ねは近東に暮らす人たちにはわりと馴染み深いものなのかもしれません。カプランオール監督の知識量とそれを編み上げるセンスは、僕らの育った世界の外側からの精緻な観察と公平でナチュラルな理解にもとづくものなのだろうと察します。初見時タルコフスキーの映像言語を使いすぎじゃないかとやや不満もありましたが、トルコ版DVDで繰り返し見ているうちに、そんなことはどっかに吹っ飛んじゃいました。
とにかく絵が素晴らしい
2017 TIFF competition
東京グランプリ
内容は過去のディストピア的SFの集合体のように感じた。特に個人的にはタルコフスキーの幻影などを見た。さらには、黒澤明や溝口健二の要素も感じたのだけれど…まぁあくまで個人的な印象ではあるけれど。
夢と現実が入り組んだような展開で、混乱しかねない部分もたくさんあったけれど、内容は分かりやすい方だと思うし、何よりも隅々までこだわり抜いたような映像が素晴らしかった。壮大で美しく映し出される大自然の中、ダイナミックに物事が展開していく長回しなどには鳥肌が立ってしまった。
5年も費やしたその理由、適したロケーションを求め、最高の映像を撮ろうとした結果だと想像がつく。
上映前、監督が白黒で撮った理由を、二面性を表現したいがため、と語っていたが、それも非常によく理解できる力強い映像に最後まで釘付けであった。
ぜひもう一度大画面で見たい作品だ。
難解なメッセージ
東京国際映画祭グランプリ上映で鑑賞。
うーん、僕には難しかった…というか理解できなかった。
監督の言う現代に広がる社会問題に対する危機感はとても共感するが、それを表現するための映画として少し難解すぎて飲み込めなかった。
エンタメに偏る映画業界への危惧も分からなくはないが、人々に興味を持ってもらうための最低限のエンタメは必要ではないだろうか。
モノクロの画に力を入れすぎてミクロの描写にこだわりすぎて、マクロのストーリー表現が物足りなかった印象。
不法移民の侵入を防ぐ為に周囲に電磁壁を張り巡らせた都市に暮らす種子...
不法移民の侵入を防ぐ為に周囲に電磁壁を張り巡らせた都市に暮らす種子遺伝学者のエロールは穀倉地帯で収穫される作物が遺伝的危機に瀕していることを知る。対策会議に参加したエロールは、遺伝子操作した種子の危機に関する論文を遺して失踪した遺伝学者ジェミールの存在を知り彼の捜索を始める。都市の中で何ら痕跡を見つけられないエロールはジェミールが電磁壁の向こう側の地域デッドランドに潜伏していると確信し、助手のアンドレイとともに危険な旅に出る。
映画そのものが古いのか新しいのかも判別つかないくらいに粗いモノクロ映像で描写されるデストピアが独創的で美しいわけですが、ほとんどCGを施していないロケ撮影であることにビックリ。人間を一瞬で焼き尽くす電磁壁の向こう側で淡々と展開するドラマは、さながらケンシロウが出てこない『北斗の拳』第1話。絶望的な風景が地平線の向こうまで続く世界に垣間見える儚い希望がじんわり胸に沁みます。
息吹か穀物か・・・
第30回東京国際映画祭でEXシアターにて上映
今作品程、ティーチインで監督に質問したいと願った作品であったが、後髪引かれる想いで劇場を後にした作品だ。
それ程、かなり哲学的、宗教的で難解な作品であった。映像自体は全編モノクローム仕立てになっているので余計な色がない分、輪郭が際立ってみえる。
前半はSF、そして後半はファンタジーのシークエンスが繰広げらていく構成。
イメージングも、前半は古典的SFチックなシンメトリックな背景が拡がり、打って変わって広大だが、どこか奇妙で異様な自然のロケーションで、ロールプレイングのような旅に出る。それは丸でスターウォーズ、インディジョーンズにデジャヴを感じてしまったのは気のせいだろうか?
アヴァンタイトルでの『壁』を横切ろうとした子供が丸焼けにされてしまうシーンや円盤型偵察機等々のSFXもさりげなくカットに挿入されているところにセンスの良さが伺える。
後半の外側の世界で逢った男は、果たして実在していたのか、それとも幻なのだろうか。男があちこちに置いていった種の一粒一粒を蟻が運んでいく、それとシンクロするように、隠された肥沃な土を一袋毎運ぶ自分との対比。狼、壁の向こうのパラレルワールド、そして、表題の意味。今作品も又、一度観ただけでは理解不能な、心の大事な琴線を揺さぶる作品なのである。
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