「笑われても良い自分を貫く生き方」負け犬の美学 とえさんの映画レビュー(感想・評価)
笑われても良い自分を貫く生き方
最後にホロっとする、じんわり温かな映画だった
主人公のスティーブは45歳のベテランプロボクサー
彼は、これまで、49戦して13勝しかしていない弱小選手だ
そんな彼には2人の子供がいて、経済的にも苦しくなってきたこともあり、50戦したらボクサーを引退することに決めていた
そんな時、スティーブはトップクラスのボクサーがスパーリング相手を探していることを知り、娘の大好きなピアノを買うためにスパーリング相手に立候補する…
スポーツの世界には、どんな競技にも世界のトップに君臨するチャンピオンがいる
そして、そんなチャンピオンの裏にある血の滲むような努力と、それがもたらす勝利には、とても胸が熱くなる
これまで、多くの映画はそんなチャンピオンの感動的な姿を描いてきた
しかし、そのチャンピオンの陰には、どんな選手にも、日頃、練習相手のためだけにいる選手たちがいる
例えば、野球のホームランバッターの陰に練習用のピッチャーがいるように
チャンピオンを目指すボクサーには、スパーリング相手のためだけのボクサーがいる
この映画は、そのスパーリング相手にスポットライトを当てた作品である
そんなスパーリングボクサー スティーブを観て感じたのは
「ふがいない」とか「うだつの上がらない」という言葉だった
どんなに必死に戦っても勝てず、子供にカッコいい姿を見せることができない
けれど、私たちが生きる社会の中では、チャンピオンになれる人はわずか1%ぐらいで
スティーブのような人が多数派なのだ
だから、きっと多くの人が彼に共感し、心の中でがんばれと応援してしまうのだ
では、なぜ、勝率2割6分の彼が45歳になってもボクサーを続けているのか
ただボクシングが好きだからだ
チャンピオンのサンドバッグになってボコボコにされても、50戦までやると決めたら、その引退の日までボクシングに命をかける
その生き様にグッとくる映画だった
周りの人たちに笑われようと、生き恥を晒そうとも、自分で決めた人生は最後まで守り抜く
ふがいなくても、うだつが上がらなくても良い
最後まで必死に戦うことが、ボクサーとしての彼の生き様なのだ
その彼の心意気を知ったチャンピオンは、彼にサプライズプレゼントをする
このチャンピオンの心遣いにグッときてしまった
日頃、スパーリング相手のボクサーにスポットライトが当たることはないけれど
ボクシングに対する思いは、チャンピオンも一目置くほどなのだ
そんなスティーブに対して「負け犬」っていうタイトルを付けちゃう邦題ってどうかなと思った
彼の心にある志は、決して負け犬ではなく、もっと気高いものだからだ
そういう地味な日陰の人たちにスポットライトを当てる優しさが良いなと思った
彼の最後の檜舞台には、思わず涙が出てしまった