劇場公開日 2018年8月18日

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「いろいろ背負った男と戸惑う象」ポップ・アイ 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0いろいろ背負った男と戸惑う象

2018年9月3日
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鑑賞方法:映画館

悲しい

 タイ料理は好物でよく食べているが、タイの映画は初めてである。この映画はシンガポールとタイの合作となっているが、冒頭に中国語のロゴがたくさん出てきたので、中国資本も介在しているのかもしれない。
 ストーリーは簡単だ。初老になろうとする男が、子供の頃に飼っていた象に再会する。いつしか他人の所有になっていたその象を、彼は買い戻す。丁度会社からも家庭からも必要とされなくなっていたこともあり、彼は会社を休み、象を連れて故郷へ向かう。その道中にいくつかの出会いがあり、悲惨とも言える別れがある。そういうロードムービーだ。
 出会った人々との初対面の挨拶は合掌である。お釈迦様への言及もあり、タイが仏教国だということを思い出した。それに南国だけあって、人々は生活には困っているが、北国と違って凍え死ぬことはないので、寝るところがなくても直ちに生命の危険があるわけではない。だから切迫した危機感はなく、どこかのんびりしている。キリスト教のように他者とのかかわり方が中心の宗教ではなく、自身の内面を掘り下げていく仏教が生まれたのは、南国ならではだ。

 象にとっての男の存在はどういうものだったのだろうか。男は一緒に歩くだけで芸を強要することもない。しかし都会から連れ出してくれた男には、都会の影が残っている。象にとっても男の存在は悩ましいものであったに違いない。戸惑う象の様子が微笑ましい。
 男が何故象を買い戻したのか、最後の方で漸く明らかになる。男の肩には自信や誇り以外に、後悔や罪悪感もつきまとっているのだ。そして男の思いに肩透かしをするかのような事実が明かされ、男は自分の骨折り損に苦笑する。重荷も降りたが、達成感も失われ、空っぽになってしまったのだ。それを知ってか知らずか、最後は妻の優しさに救われる。観客も救われた気分になる。
 中年期の性欲やタイのゲイ事情まで盛り込んだ意欲的な作品で、女性監督ならではの細やかな感情表現もあり、とても見ごたえがあった。

耶馬英彦