劇場公開日 2018年5月19日

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「本作はまるで本当の守一のドキュメンタリーを観ているような世界観で素晴らしかった!」モリのいる場所 Ryuu topiann(リュウとぴあん)さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5本作はまるで本当の守一のドキュメンタリーを観ているような世界観で素晴らしかった!

2018年12月5日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

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我が国を代表する画家、熊谷守一画伯の晩年の或る一日の物語をコミカルに描いた秀作。

先の昭和天皇陛下も美術館で熊谷守一の作品を観賞し、文化勲章を受章すると来客が増えるので生活が乱される事が迷惑であるとの理由で、文化勲章の受章を辞退してしまう程の、根っからの天才芸術家。しかし、30年以上も自宅から出た事すら無いと言う、世間の一般のしがらみを全く気にする事無く、自由に画を描く為にだけ生きた仙人画家の晩年の風景物語。だが私にはとても心地良かった。守一独特の世界感へと誘ってくれる本作はこれと言った事件も無い、年老いた画家の只庭を観察するだけで日が暮れると言う日常なのだが、本当にそれはそれは心地良い。

熊谷は明治の初期の生まれで、今から40年以上も前に亡くなっているので、この映画の時代は今から半世紀近くも前の物語だろう。
守一の広い庭には多くの木々が生い茂り、森のように青々と木々が生息し、虫や野鳥の生態を30年以上に渡り観察し続ける事で、独自の世界感を持ち、作品を描き続ける孤高の天才の生き様には心を洗われるような素晴らしさが有る。
勿論半世紀も前の事なので、今とは比較にならない程のんびりとしていた時代の筈だ。高度経済成長期になっているので、戦前を生きた守一達から見れば、気せわしい世の中で、暮らし難い時代になっていたと感じていたのだろう。

守一を取材しに来たフォトグラファーの若い助手は、最初は変人としか感じなかった守一の行動を観察するうちに、その素晴らしさに魅了されて続けて取材をしていく様になるのだった。その様子が何だか私にも分かるような気がした。

それにしても、山崎努と樹木希林が2人並んで座っているだけで、2人とも本当に数十年を共に生きて来た夫婦の様にみえてしまうから、芝居の達人とは本当に不思議なものだ。

ところで、樹木希林の出演する映画やTVドラマには食事をするシーンが凄く多く出てくるが、本作でも、カレーうどんや、すき焼きを囲みながら人々が集うシーンがある。彼女自身も料理上手な方だったらしいけれど、どの作品でもこの食を囲むシーンにそれぞれの家庭の独特生活感が浮き彫りにされ、一つとして同じ様な食べ方をしていないのも、希林さんの演技力の見せ処ではないだろうか?惜しい役者を亡くして残念な限りだ。

それから守一に、子供が書いた画を見せる親を見て、その画を下手な絵だと褒める守一の言葉がまた素晴らしかった。確かに芸術は巧い下手ではなくて、作品を創作する情熱を持ち続けると言う事の方が大切な事なのだろう。下手な方が伸びしろが有って良いとは、素晴らしい含蓄が有る言葉だ。

何も特別な事件も無い平凡な守一と妻の生活を軸に描かれる日常がこれ程豊かで有るとは思いもしなかった。ドラマと言うよりは、本当の守一のドキュメンタリー映画を観ているような安らぎがここにはあった。

ryuu topiann