「97分の日常に対してほんの3分ほどの名言がぐわっと心を掴む」モリのいる場所 kizkizさんの映画レビュー(感想・評価)
97分の日常に対してほんの3分ほどの名言がぐわっと心を掴む
30年間、家の庭から外に出なかった実在する画家・熊谷守一を描いた半フィクション。
個人的には2018のTOP3には食い込んでくるであろう良作!
この作品の”間”が面白いです。
アップになってから喋りだすまでの間、カメラが振られて動き出すまでの間……すべての間がワンテンポ遅いのがモリのスローな生活を上手く演出している。
最初はその間に違和感。しだいにそのテンポが自分にも自然になってくる。
ちょっとした一言が面白い。
”あー、親族で集まったときはこんな会話してるわ”ってな絶妙なやりとり。それは一番心地よいやりとりでもあるのでしょう。
すっかりその空気に取り込まれて久しぶりに映画館で声を出して吹き出しちゃいました。自然体で笑っちゃった。「よくいう」
大きいことは何も起こらない。変化も無い。ここはターニングポイントになるのでは?って展開があっさり終わったりする。その面白さ。
基本はゆるーい日常を描いてる。
グイグイ引っ張る物語性も押し付けるメッセージ性もない。
でも映画を通して3、4だけのハッとなる名言がある。
97分の日常に対してほんの3分ほどの名言がぐわっと心を掴む。そこがロックです。
変化、成長を描いた映画は数多くあれど変わらないコトをここまで描いた映画はなかなか無い。
変わらなくとも周りは変わるし、過去に色々とあったことも含みを持って内包されてはいます。
でも変わらないコトを肯定的に描いてくれるこの映画にはなんだか安心感を覚えました。
ラストのカットも素晴らしい。
突然に非現実なシーンが挟まれるのは人を選びそうだなぁ。
私は監督のユーモアとして受け入れられました。
あのおかげで最後のモリと秀子のやりとりに不思議な感触を与えてくれたし。
『モヒカン~』でも突然のブっとび展開あったし、監督ぶち壊すの好きだなあ;
モリ役の山崎努は2本の杖を使って庭を歩く。山崎努×杖はマルサの女の権藤を思い出させる。
2本になって進化した!と勝手にワクワクしたり(笑)
長セリフはほぼ無いけど権藤の雰囲気が残っててニヤニヤしたり。
牛尾さんの音楽はホント素晴らしい。劇伴って雰囲気を作ることが多いけど、今作の音楽はまるで自然の声を音楽で表現したかのようです。草が虫が音楽を通してしゃっべてくるよう。
VJが音楽にシンクロしていくのの逆。音楽が映像にシンクロしていってる。
パンフのあらすじページには映画の最初から最後までのストーリーが書かれている。映画中の3、4つの名言もすべてそこに書かれている。そう、ストーリー自体は1ページに収まるほどコンパクトなのです。
でもそれを100分間使って描くことで素晴らしい物語、言葉にしている。良作!
あ、虫のどアップがあるので苦手な人はちょい注意です。