「アメリカの都合のいい正義」アメリカン・アサシン レントさんの映画レビュー(感想・評価)
アメリカの都合のいい正義
CIAの特殊工作員である主人公がアメリカの敵と戦ういつものパターンで今回の敵はイラン。アメリカは中東でやりたい放題して敵をたくさん作ってきたので、この手の敵には事欠かない。
1950年代イランの石油利権をめぐって、アメリカはイギリスと組んでCIAを使いクーデターを起こして傀儡政権樹立に成功するも、王政の独裁に反対した国民により王は追放され最高指導者ホメイニ氏が実権を握ることに。その後の1979年のイラン革命で西欧文化の影響を一掃し、イランはイスラム教原理主義の国として生まれ変わる。
傀儡の独裁政権を作りあげたアメリカに対するイランの反発は根強く、ベン・アフレックの「アルゴ」で描かれた米国大使館人質事件が起きて、米国側もイランに対して強硬姿勢を強めていく。
そしてイランの核開発に対する国際社会による経済制裁からの2015年の核合意を経てイランの対米姿勢も軟化するかと思われたが、あのトランプが一方的に核合意を破棄したために振出しに戻ってしまう。
そもそも、核兵器開発に対してアメリカはイランを悪の枢軸など名指ししていたが、核兵器開発の確固たる証拠は今のところない。イラクに対して大量破壊兵器を持っているといういちゃもんをつけていたのと同じである。よしんばイランが開発していたとしても、その大量破壊兵器を唯一実戦で使用し、未だに五千発以上も保有していながら、他国による開発は一切禁止するというアメリカの態度はいかがなものか。
こうして両国の関係を見てみるとどっちが悪の枢軸なのかわからなくなるが、本作はアメリカ映画なのでアメリカが正義として描かれている。
そして物語はまさにそのイラン政府の核合意に反発する一部の過激派がイスラエル攻撃のために核兵器を独自で製造しようとするのをCIAが阻止しようというもの。
その任務に就く主人公ミッチはただの大学生のチャラ男だったのが、恋人を殺されたきっかけで才能が芽生え、特殊工作員として養成されることに。
養成するのはベテランのスタン。しかし敵対するのはかつてのスタンの教え子ロニーだった。そしてこのロニーこそ自分を見捨てた母国アメリカへの復讐のために核兵器を使おうとしていた。
散々悪事を重ねてきたCIAを皮肉っていると見えなくもない。イランは本作では所詮当て馬だった。
教え子同士の対決でミッチは勝利して核爆発の被害は最小限に抑えられるも、例のイランの過激派はアメリカを敵視して核開発再開を宣言。そこにアサシンとなったミッチが。
アクションはなかなか見ごたえあるものでこの手の映画としてはいい方。特に主人公が狭い通路内を車で突進して敵を強引にひき殺すところがよかった。
ただ、主演を演じたディラン・オブライエンはもう一つインパクトに欠ける印象でシリーズ化は難しかったようだ。敵役のテイラー・キッチュの方がよかったな。
ちなみに先日のイスラエルのイラン大使館空爆に対する報復攻撃がイランによって行われたが、岸田首相はさすがアメリカの傀儡政権だけにイスラエルではなく、イランを非難してたな。もはや今の時点での中東一の暴れん坊はイスラエルだけどね。