「脚本の巧みさ、役者の個性を活かした役割、作品の完成度」スリー・ビルボード 琥珀糖さんの映画レビュー(感想・評価)
脚本の巧みさ、役者の個性を活かした役割、作品の完成度
どれをとっても超一流。
娘をレイプして焼き殺された母親の怒りが3枚の広告看板・・・
ビルボードにしたことから、巻き起こる小さな町の騒動。
重苦しいテーマなのに、個性的な登場人物それぞれの超一流の演技が
化学反応を起こし忘れられぬ名作として心に残る。
人物造形・・・これが素晴らしい。
主役のフランシス・マクドーマンド、
彼女からボードの一枚に、
「なぜ?ウィロビー署長」と名指しされる
警察署長役のウディ・ハレルソン。
ミルドレッド(マクドーマンド)と対立する黒人差別主義者
の警官・ディクソン巡査(サム・ロックウェル)
広告を請け負う代理店のレッド。
彼はディクソン巡査から暴行を受けて大怪我をする。
小男のピーター・ディンクレイジ。
ミルドレッドの別れた夫。
それぞれ適所適材で役割を果たす。
《事件》
7ヶ月前、ミルドレッドの19歳の娘がレイプされ焼殺されてた。
なんの進展もない捜査に業を煮やしたミルドレッドは犯行現場の町外れに
3枚のビルボードを立てることを思いつく。
①枚目は「レイプされて死亡」
②枚目は「逮捕はまだ」
③枚目が、「なぜ?ウイロビー署長」
この看板は目立った。
土地のテレビ局が取材に来る。
このビルボードは波紋を呼ぶのだ。
一番面白くないと思ったのはディクソン巡査。
ミルドレッドの勤務先の店長を逮捕拘束する・・・に始まり、
広告代理店のレッドは店の窓をディクソンに割られ、
レッドは窓から投げ飛ばされ、靴で顔を踏ん付けられる。
更に激昂したミルドレッドは警察署を襲撃。
火炎瓶で放火するのだった。
そこに警察署を首になったディクソンが居たのだ。
膵臓がんで余命わずかな署長ウィロビーは拳銃自殺を図り
死んでしまう。
ディクソンはウイロビーの遺書を読んでいたのだ。
あれよ、あれよの展開!!
短気で抑制の効かないミルドレッド。
何も捜査してくれないように見えるウイロビー署長が
実は感慨深い人物。
彼の残す3通の遺書は実に筋が通っていて感動する。
レイシストのディクソン巡査のレッドへの暴行を目撃するのが、
次期警察署長として赴任した黒人署長。
実に人を喰ったストーリー展開で、こじれにこじれるのだ。
今になって分かる後付けの情報。
監督・脚本はマーティン・マクドナー。
劇作家で脚本家で映画監督。
2022年公開「イニシェリン島の精霊」の監督で脚本も書いている。
この映画は実に面白くて非常に好きな映画です。
友達だった2人の男の《凡人には理解し難い分断》が際立った。
逆に「スリー・ビルボード」では、全く分かり合えなかった
ミルドレッドとディクソン巡査が共犯者のように旅立つラスト。
ちょっとした雲行きで《同志になる不思議》も人間関係にはある事を
示唆して終わる。
怒りをたぎらせるミルドレッドだけれど、
広告料をカンパしてくれる匿名のメキシコ人や、
ミルドレッドの放火を庇うてくれ、
貼り直す看板の脚立をそっと支える小男ディンクレイジ、
何も責めずに母を見守る息子のルーカス・ヘッジス、
そして何より、遺書に小切手を忍ばせて事件の解決を望んでる
ウィロビー元署長。
ミルドレッドは優しい善意に守られている。
アイダホ行きの車中には、心地よい風が吹いている気がした。
> 全作が映画館で鑑賞したもの
映画観るしかないという環境である "映画館"、好きなんですよね。
ただ、最近はネトフリやアマゾン、U-NEXTでもわずかだけど観ています。
琥珀糖さんへ
コメントありがとうございました。
ラストシーンは曖昧にしたようで、実は監督の人間性への信頼が滲み出てくるような心地よい風が吹いていましたね😊
「イニェシェリン島の精霊」と同じ監督で脚本家、マクドナー、そうでしたね。当人同士の通底関係、他者どころか当人もわかってるのか?感を面白く突いてくる映画でした!