「3つの看板広告で、ここまで広げられる発想力が凄い! 一方で2年経っても解けない謎も…」スリー・ビルボード 細野真宏さんの映画レビュー(感想・評価)
3つの看板広告で、ここまで広げられる発想力が凄い! 一方で2年経っても解けない謎も…
本作は、(2018年の)第90回アカデミー賞で作品賞を「シェイプ・オブ・ウォーター」と競っていた名作で、作品賞、脚本賞など7つノミネートされ、結果は(「ファーゴ」に続き)フランシス・マクドーマンドが主演女優賞、(遅咲きの)サム・ロックウェルが助演男優賞を受賞しました。
本作の面白さは、何と言っても脚本だと思います。たったの3つの看板を使って、よくここまで緻密で深い話に持っていくことができたと感心します。会話も(良い意味で)高度で、例えば聖職者らが注意しても、辛辣でロジカルな皮肉で返していくといった攻防も非常に痛快です。
何度も繰り返して見たい「映画史に残る名作」であることは間違いないでしょう。
(ちなみに、私は作品賞を受賞した「シェイプ・オブ・ウォーター」よりも本作の方が好きでした)
ただ、脚本の進行が高度であるからこそ、こちらも注意深く見てしまうからか、どうしても私には解らない大きな2つの「疑問」が存在しています。
そこが少しだけ引っかかるため、評価は4.5としています。
【以下、ネタバレありで書きます】
1つ目の疑問は、悪徳警官を演じるサム・ロックウェルが広告マンを2階の窓から投げ飛ばし、ボコボコにした件ですが、いくらミズーリ州の架空の田舎町と言っても、さすがにこれは「訴訟大国アメリカ」なのでアウトでは? 時代設定なのかと思ってみても、携帯電話は登場しますし、新署長の会話から2000年代ではあるので、訴訟は日常的な時代です。しかも他のシーンでは法律案件の会話も複数あるので、ここは論理矛盾が出ないような「何か」が欲しかった気がしています。
2つ目の疑問は、警察署放火の件ですが、「人がいるかの確認」のために電話をしていますが、これは放火の決定的な証拠になってしまうのでは? そもそもDNA鑑定が当たり前にある時代で、不自然な電話の通話記録の確認など当然のはずで、しかも手袋をせずに電話をしているので指紋の証拠としても厳しい気がします。
この2点は試写の段階から「解けない謎」でしたが、やはり現時点でも変わらない結果でした。
実は、本作のマーティン・マクドナー監督は、これだけの名作なのに、なぜかアカデミー賞で監督賞にノミネートされなかったのですが、私には理解不能で、せいぜいこの2つの「疑問」くらいしか思い浮かびません。
本作で好きになったマーティン・マクドナー監督の次回作もオリジナルでサーチライト・ピクチャーズ作品のようなので、またアカデミー賞級の作品になると思われ今から期待してしまいます。