「傑作」スリー・ビルボード ミカさんの映画レビュー(感想・評価)
傑作
娘をレイプされ燃やされ殺されたミルドレッドとイラクやシリアの女性達が重なりました。粗暴なディクソンとトランプを支持するラストベルトの男性達が重なりました。この作品の登場人物はアメリカ、そして世界中の『今』を象徴するかの様に怒りに突き動かされています。
劇中「怒りは怒りを来たす」という台詞がでてきますが、ミルドレッドとディクソンの怒りは根本的に異なると思いました。それは、怒りを向ける相手です。ミルドレッドの怒りは、娘を殺され解決しようとしない警察という権力に向けられていますが、ディクソンの怒りはそもそも劣等感であり、自分より弱い者に向けられています。
だけどディクソンが変わったきっかけになったウィロビーからの手紙とオレンジジュースは、こんな自分でも他者から認められたと心から感じたからだと思います。逆を返せば、トランプを選んだアメリカは他者から認められていないと思っている人が多いのではないでしょうか。
レイプ犯の元に向かおうとするラストシーンは、イラク戦争を起こした国家権力に対する強烈な怒りを表している様に感じました。レイプ犯の司令塔は軍隊、つまり強大なアメリカ国家です。ミルドレッドとディクソンに怒りを与えていた根本は身近な人間などではなく、実は強大なアメリカ国家ということなのかも知れません。
この作品を鑑賞して思ったのは、「怒ってはいけない」ということではなく、怒りを向ける先を間違えるなということです。ミルドレッドとディクソンの顔が憎しみから笑顔に変わった時に、「スリー・ビルボード」は間違いなく映画史に残る作品だと確信しました。