劇場公開日 2018年3月1日

「会話が聞こえない本作の意味はとても深いです」シェイプ・オブ・ウォーター あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0会話が聞こえない本作の意味はとても深いです

2020年9月26日
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鑑賞方法:VOD

名作です!
長く長く語り継がれる映画になることと思います
心を鷲掴みにされました

物語は1954年の「大アマゾンの半魚人」のその後のお話しという形です
だから1955年に公開された続編「半魚人の逆襲」と同じですが、リメイクではありません
捕獲された半魚人が研究所につれてこられ、そこで人間の女性と心を通わせるところまでは同じですが、その後の展開が異なります
そこから先は1984年の「スプラッシュ」とほぼ同じです
しかし本当は「美女と野獣」の翻案だと思います
二人だけの舞踏会のシーンがあって監督が教えてくれています

だから冒頭のナレーションで王子と王女様のお話しだと言うのです
野獣はもちろん半魚人
見た目で人間を判断しているのは私達です
半魚人は醜い?
人種の違う人間は醜い?
身体障害者は醜い?
LGBTの人間は醜い?
貧者は醜い?
執拗に監督は問うてきます

魔女にかけられた呪いを、あなたは解いてあげられますか?と

イライザは声帯を傷つけられて話せない女性です
だから聾唖ではなく、耳は正常に聞こえています
なのになぜ、本作では殆ど聞き取れないほど人の声だけが小さな音量なのでしょうか?

それを疑問に思ってくれといってます

彼女は本当は聞こえているんだよ
何故だ?どうして声だけが聞こえないの?
そこに気づかなかったら、自分が無自覚にしている差別にも気がつかないんだよ
監督はそう問いかけています

言葉には意味はないのです
問題は行動なのです
聞こえなくて良いのです

口ではいろいろなことを言える
でも行動であなたのその立派な考えを示すことはできるのですか?
建て前だけじゃ無いんですか?

そう監督から問われていると思います

半魚人とイライザのラブシーンをあなたはどう感じたのですか?

半魚人も知性と心を持つ人間だと言うならば、イライザみたいに行動で彼を受け入れることはできるのですか?と

愛の形は様々です
愛の形 = Shape Of Love
本作のタイトルはShape Of Water
だから半魚人とのラブシーンのあとイライザがバスの窓の水滴が様々に形を変えて流れる様を指で追うシーンがあまりにも美しいのです

アマゾン川はもちろん淡水です
なのに半魚人は塩水でないと衰弱してしまうのでしょう?
なぜ海に帰すのでしょう?
もともと半魚人は海に棲むのならなぜアマゾン川で捕獲したというのでしょう
アマゾンなんて結局のところ方便にすぎなかったのです

イライザは人魚姫だからです
ディズニーアニメの「リトルマーメイド」です
その物語でもあったのです
人魚姫のアリエルは魔女から魔法で足を貰い、声を失います
だからイライザは声を話せないのです
人魚姫は人間になったものの、三日以内に王子様とキスしないと魔女のものになってしまう
だから、イライザはあんなにはやく半魚人とセックスしてしまうのです

分断化された社会はアメリカだけでなく、世界中、日本でも同じです

言葉狩りで私達は声を奪われていっています
果たしてそれで差別は無くなるのでしょうか?

会話が聞こえない本作の意味はとても深いです

映像も見事でした
デジタル撮影とはとても思えないほどの、豊潤な映像が撮れています
撮影と照明の技術も卓越していたと思います

オクタヴィア・スペンサーは、いつもながら見事な演技でした

そしてなにより、イライザ役のサリー・ホーキンスの造形に魅せられてしまいました
あまりにキュートで心を奪われてしまいました
彼女の配役が本作を成功に導いています

あき240