「リアルとファンタジーの間で、美しく官能的な大人のお伽噺」シェイプ・オブ・ウォーター 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
リアルとファンタジーの間で、美しく官能的な大人のお伽噺
水中で、謎の生物と赤い服の女性が抱き合いキスをする。
あのポスターだけで、作品を見る前から「私はこの映画が好きに違いない!」と思った。
ギレルモ・デル・トロの世界観は「パンズ・ラビリンス」も大のお気に入りだったが、今回もその細部にわたる映像の美しさと不思議なロマンティシズムにずっと恍惚。口のきけない内向的な女性と、アマゾンで発見された謎の生物との心の交流という設定からしてロマンティックでもうたまらなかった。
ファンタジーというと子供向けのものと思われがちだが、デル・トロのファンタジーはいつも大人のためのものだ。だから、異種間の美しい心の交流と、ただ美しいだけでない肉体の交流とが交差しながら描かれるラブストーリーは、ピュアであると同時にとても官能的でセクシー。あぁ「純愛」ってつまりこういうことだ、と思う。体を結ばないから純愛なのではなく、魂と肉体とを強く強く求め合うということこそが則ち純愛なんだろうと、二人のロマンスを観ていて強く思ったし、なんだか二人の間のロマンスに崇高ささえ感じてしまいそうなほどに酔わされていた。サリー・ホーキンスによる、リアルとファンタジーの狭間に君臨するような独特の存在感と、穏やかでありつつも時にエモーショナルな演技表現がまたこの不思議なラブストーリーを力強く裏付けていてとても良かった。
物語は60年代のアメリカが舞台だし、日本とは違う文化の中の物語のはずだけれど、なんだかまるで日本で古来から伝わる絵巻を現代風に翻訳したのだとか、どこかの国の神話を作り替えたものだなどと言われても信じてしまいそうな、そんな普遍的なテーマを感じる物語だった。
その一方で、発語障害者のヒロイン、親友は同性愛者、職場の同僚は黒人女性という具合に、映画の時代設定である60年代であれば、2018年現在よりも尚、差別を受けがちな人々が力を合わせ一つの愛を貫こうとし、またそのヒロインが心を通わせたのは人間ではない謎の生命体であるという、こういうところはとても現代的というか、今の時代に即したとてもタイムリーなテーマ。だからこそ余計に、感じ入る部分があった。