「死を欺く映画」スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け movie46さんの映画レビュー(感想・評価)
死を欺く映画
この映画では、死を欺くことが演出の鍵として統一されています。
パルパティーン、キャリーフィッシャー、チューバッカ、C-3POのメモリー、ゾリ(新キャラクター)、ベン、レイ
九死に一生を得たり、記憶が元に戻ったり、死んでなかったり、蘇ったり、死を欺くことが徹底されています。
この一貫した脚本の流れが、痛快に死んだハックス将軍のシーンを、より一層際立たせることに成功しています。
※主観的で細かい文句ばかりなのでご了承下さい。
【過去作に敬意を払ってほしい】
チューバッカのイカサマ疑惑のシーンはとても残念でした。チューバッカ=ギャグ要因という気持ちで演出したのでしょう。実際にチューバッカは旧三部作でもギャグ要因として扱われていますが、個人的に見たかったのは、かつてドロイドのR2に負けて悔しそうだったチューバッカが、実力でフィンに勝ち続ける成長の姿です。
R2にも出番が欲しかったです。今回の三部作では、3POとR2が一緒に活躍するシーンがほぼありません。人語を操る通訳ドロイドとして、ストーリー運びに都合の良い3POだけが壮大な物語に駆り出されます。
ルークスカイウォーカーが、レイの捨てたライトセーバーを掴み「ジェダイの武器には敬意を払え」と言うシーンがあります。とても不快です。
ジェダイマスターの言葉としてこれほど重みと勇気を与えるものはありません。しかしそれはエピソード8で変わってしまったルークの言葉としては非常に不快なひと言になっています。ルークはエピソード6でライトセーバーを捨てる描写があったり、そもそも似合う言葉では無いなと感じるのですが。シリーズ通してジェダイはライトセーバーをよく落とすというお約束を皮肉った描写なのかもしれません。本気で真面目に言わせたのなら、とても滑稽です。ルークの歩く姿もかなり尺が長く滑稽でした。話がそれましたが、真面目なシーンで空気が読めていないのが残念です。8からの軌道修正が優先されたため生まれた矛盾です。採用してはいけないシーンでした。こうすれば観客は喜ぶだろう、観客の怒りは静まるだろうという安直な発想がそのまま採用されたような描写が多く存在します。制作者は口では否定しているかもしれませんが、多くの視聴者がそうは思わなかった時点で表現上の失敗となります。
【エピソード8も過去作のひとつ】
問題作と言われるエピソード8に存在意義を見いだすチャンスが、本作では少なからずあったと思います。惑星キジミを脱出し、チューバッカを救いだすために敵陣に潜入するシーンに、より説得力を与えることができたであろう唯一のキャラ「コード破り」の存在は、本作では影も形もありませんでした。
子供の頃に初めて見たエピソード5は、とてもモヤモヤする結末でしたが、その後エピソード6を見て、ハッピーエンドへの布石として物凄い傑作だと改めて評価したのを覚えています。
今回エピソード9を見たあとのエピソード8には、それが全く感じられませんでした。スターウォーズがすべて繋がった一筋の物語であることを、最後まで諦めないで欲しかったです。
【せっかくのアイデアが埋もれる】
ルークのXウィングがエクセゴルに向けて飛ぶシーンです。
エピソード6からかなりの時間が経っているのに、いまだにスターデストロイヤーやTIEファイターが宇宙を飛び、Xウィングがそれを迎え撃つ。それが今回の三部作の世界観です。
エピソード4で、ポンコツと呼ばれたミレニアムファルコンが最新のメカを凌駕する活躍を見せる姿に、私は感動しました。
見てくれよりも中身。ルークのXウィングも、それを象徴する物だったら、感動はもっと大きかったでしょう。
エピソード7で後の展開を考えず安易な設定を選択した結果です。
【好きな点】
過去の映画を知っているほどフォースの描写に疑問が残る今回の三部作でしたが、唯一好きだった描写があります。
それは、アナキンスカイウォーカーがなし得なかった偉業。愛する者を死から救う力の描写です。人々の命を奪い続けてきたベンソロが、最後に愛する者の命を救うというアイデアには、惜しみなく百点満点をあげたいです。エピソード3の悲劇に希望が付与されます。映画そのものの出来がよければの話でしたが。思えばそもそもベンがいつレイを好きになったのかすら描写されてませんが、この映画にとってはその程度の違和感は誤差範囲です。
私にとって、本作独自の魅力は上記に尽きます。
残りは全て過去作への軽視です。
今回の三部作で行われたのは、掘り返し、破壊、火消しと謝罪。そこにはスターウォーズ世界の歴史を描く姿勢など全く無く、3作に渡る連続した物語制作のビジョンもありません。
この三部作によって、最後にはシリーズそのものへの興味を失う事になりました。
帝国、反乱軍、ルーカス神話、それらの再現を、映画製作をめぐる論争という、現実の世界で展開してしまったような…
【子供時代に思い描いたスターウォーズ、そのまんま】
小難しいシーンを飛ばしながら大好きなアクションシーンを繰り返し見続けたスターウォーズ。
ジョージルーカスが大切にしてきた内面的な物は未だによく理解できないから、表面を真似して、それだとつまらないからちょっと背伸びした内容に改変。話がまとまらないから最後は大好きなアクションシーン満載で締めくくる。
ジョージルーカスを散々軽視して、最終的にはジョージルーカスにすがることでしか観客を満足させられなくなった。とても質の低い映画でした。
ルーカスのように面白いスターウォーズを作れると本作を生みだしてしまった製作陣には、師匠のように弟子を育てられると自分に言い聞かせ、育て方を誤りダースベイダーを生みだしてしまったオビワンの葛藤を、感じて欲しいです。
他の作品と比べることを不快に思われる方もいると思いますが、スピンオフ作品のローグワンは、スピンオフにも関わらず映画そのものがシリーズの流れを繋ぐものとして制作され、エピソード4の冒頭に付加価値をつける事に成功しています。
反対に、エピソード7~9の三部作は、他の批判的な方々の意見にもある通り、エピソード6を通過点にしてしまった事に問題があったのではないでしょうか。
このような主観的レビューを、最後まで読んで下さった皆様に感謝申し上げます。
また、最初にキャリーフィッシャーさんのお名前を出したブラックジョークになってしまったことを深くお詫びいたしますが、本当にそう感じたのでそのまま書きました。今作に長時間出演しているレイア姫の姿に、キャリーフィッシャーが本当は生きているのではないかと、とても感動したのと同時に、複雑な気持ちを拭いきれませんでした。もはや過去の俳優ありきで制作するのは、新しい世界観を妨害してしまっているので、他でやるべきだと思います。
配給会社が、映画業界全体のあり方を考えなおす良い機会になってくれたら、スターウォーズの失敗はきっと報われると、スターウォーズを好きだった者として、心から思います。