「まともな男が転じていくからこそ哀しい」まともな男 ぐうたらさんの映画レビュー(感想・評価)
まともな男が転じていくからこそ哀しい
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スイスから届いたこの映画は、序盤のカウンセリングのシーンから、何やら不穏な空気を漂わせる。穏やかに言葉を発するこの男が、やがてとんでもない行動を起こすのではないか。そんな予兆を示しておいて、答え合わせをするかのように物語が進んでいく。いや、進むというほど順調ではなく、転がっていく。あるいは堕ちていく、といった方が正確だろう。本作は、人の良い男が「わらしべ長者」的にラッキー続きになるわけでもなく、もしくは悪人が芋づる式に悪事に手を染めていくわけでもない。ごく普通に、毎日の暮らしに対処しようとしている男が、やることなすこと全てにおいて悪い方に転じていくからこそ、面白く、考えさせられ、観客はそこに自分自身の姿さえも投影してにわかにゾッとさせられるのかもしれない。主人公を演じる俳優のなんとリアルなことか。スイス版、マイケル・シャノン。その姿は、悲しさを通り越し、ちょっとだけ可愛らしく思えるほど。
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