「若者たちの青春群像」海を駆ける 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)
若者たちの青春群像
日常的な台詞だけが続く、坦々として起伏のない作品である。インドネシアの島に暮らす、震災の復興も儘ならない内に援助を打ち切られた住民たち。将来にある漠然とした不安も、日常生活の喜怒哀楽に埋もれていく。
阿部純子は、日本での色々なしがらみを捨ててインドネシアの伯母を訪ねる若い女を好演。この女優さんは「弧狼の血」でも存在感のある脇役を演じていたが、この作品でも狂言回しを上手に演じている。ただ、フェリー乗り場での平手打ちのシーンはあまりにも唐突で、どこかにインパクトのあるシーンを入れたかった監督の意向だと思うが、日常の英会話でも気を遣っているサチコが急に暴力を振るうのは不自然極まりない。怒りよりも待ち合わせの人に会えた安堵感が先に来るはずの場面で、ホッとして泣き出すくらいが妥当だろう。阿部純子は力業で暴力の場面にしていたが、この優しい作品の中で汚点となってしまった。演じた彼女も気の毒だ。
ディーン・フジオカが演じた主人公ラウは、主人公にもかかわらず極端に無口な役で、最後まで存在の意味合いがよくわからなかったが、静かに過ぎていく時の流れに何かしらの波紋を広げて、そのエポックを中心にストーリーを構成しようとする意図は読み取れた。
美しいインドネシアの島々。被災や挫折から再出発しようとする若者たちの青春群像と捉えれば、それなりに味わいのある作品だと思う。
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