「強い」ウインド・リバー tokyotonbiさんの映画レビュー(感想・評価)
強い
「獲物になる鹿は不運なんじゃなく弱いんだ」
「雪の中を10キロも走ったの?」
「そうだよ」
というやりとりがとても印象強かった。
あとは肺が凍って破裂するということも初めて知った。肺が破れて吐血して、自分の血で溺れてしまうんだな。
なんの情報もなく見たので、最初はホラーかな、サスペンスで殺人者が出てくるのかな、未解決事件とか?と思ったら真面目な社会派映画でした。
どうしてそこまで閉鎖的に、外から来たFBIに露骨に接するんだろうと嫌な印象を持ったけど、重い社会背景が未だあるという事実が後で明かされる。
インディアンの行方不明者数は数えられていない、数に入れてもらえないという強烈な事実。
極寒の厳しい環境の中で生き抜く、その地で生きるインディアンの人々は社会に反映しない、存在しないものとされているのか。
「強いから生き残った」という言葉には、もちろん犠牲になった娘も含まれているし、自分の子供も含んでいるはずだ。納得できるはずもないけど、頼るものがなければそうして生きていくしかないんだろう。
復讐を果たした終わりであるものの賛美はしない。あくまでも横たわる社会的な問題が地続きで終わっていないと示しているようで重苦しいラストだった。
社会から目を向けられていない存在ならば、社会に頼ることは出来ない。法から逸脱した行為をよそ者が止めることも出来ない。社会に入れてもらえない彼らが生き抜くために彼らのやり方で生きているからだ。
強く生き抜く人間を描いているが、娘の死にリストカットして苦しむ母親、自殺未遂を起こす父親、冷えたストーブと、けして美化せずに真摯に苦しみを描いていると思った。
もう少しこの背景を知りたいと思った。
もちろんこの地域が被害者というシンプルな図ではなくて、複雑な問題もあるのだろうという考えを持ちながら調べてみたいと思う。