「マチズモと保留地問題」ウインド・リバー kkmxさんの映画レビュー(感想・評価)
マチズモと保留地問題
とても完成度の高い映画だと思いますが、いまいち好きではないです。
テーマのひとつに強さがあるように感じました。雪と沈黙しかないウインドリバー地区では、弱き者は鬱屈して死んでいくしかありません。心身ともに強くないと地獄では生きていけないと言えそうです。
どちらかというと精神的な強さが不可欠だと感じました。主人公コリーが友人マーティンに、悲しみから逃げるな、と強くアドバイスしますが、この地域では、逃げ=死なのだと思います。
自分の弱さに負けたら即淘汰。そして淘汰されるのは自己責任。確かに、間違いなく真実の一側面ではあります。
本作は、正義と悪がくっきり描かれています。正義=強者、悪=弱者。
被害者の2人は強者でした。強い意志を持ち、軍隊や大学に行くなど、この地獄から脱出する力もありました。もしかすると彼らは弱き者たちの怨念に殺されたのかもしれません。
終盤はくっきりとした勧善懲悪となります。暴れん坊将軍レベルのわかりやすさ。まったく乗れません。
その理由は、私が弱者側に共感しているからです。
あんな地獄で腐るのは当然です。強くあれる方がレア。かつては自分自身も時代や環境に翻弄された経験があるため、加害者たちの鬱屈が自分のことのように感じられました。暴発への共感はさすがにないですが、未来がなさすぎるが故にああいう悲劇が起きるのも理解できますし、だからこそやるせなかったです。
ラストの成敗シーンなんて、加害者の魂の叫びこそが胸を打ちましたよ。
インディアン保留地の問題を訴えたかったと思いますが、アメリカンマチズモと保留地問題は噛み合わせが悪く感じました。保留地みたいな地獄を作り出さないことが、大脳が発達しまくった社会的動物である人類の務めだと思います。なので、強さを強調するよりも、そっちに力点を置いた方が説得力がでたのではないでしょうか。
飽きずに見られる完成度の高い硬派エンタメ映画だと思いますが、諸手を挙げて好きとは言えない作品でした。