「零下20℃の最高のハードボイルド」ウインド・リバー CBさんの映画レビュー(感想・評価)
零下20℃の最高のハードボイルド
「娘を失う」というひどい経験をした男たちによる諦念と決意の物語。舞台であるワイオミング州ウインドリバー保留地という場所は、先住民であるネイティブアメリカンが元々住んでいた場所を追われ、与えられた場所。そこは荒野にして極寒の場所。冬は零下20℃に至る。映画は、その舞台と同じ冷たさの中で、最初から最後まで続く。
そこにあるのは「ここで生きていく」という強い決意のみ。よいわるいではなく、自分に与えられた環境をあるがままに受け入れ、それに屈しないで生きていくというただ強い意思だ。
もちろん、その決意がない者たちも多く暮らしていて、そういうやつらが引き起こした事件を、主人公が追う。
最高のハードボイルドを観た。氷のように、いや氷以上に冷たい環境の中で、炎のように燃えさかる静かな決意。
主人公の言う「強い者だけが生き残る」という言葉における「強い者」とは、決して「力が強い、体格がよい」ではなく、心。生きる意思があるかないかという大小を言っている。だからこそ、冒頭で遺体で発見される主人公の友人の娘について、主人公は繰り返し「強い娘(こ)だ」とつぶやく。
全編通して、真のハードボイルドを伝えるメッセージだけが、語られ続ける。
主人公は、動的に強く戦って生き、友人は、静かに心の中で戦って自らの葛藤に勝つ。この対比もさりげなくはさまれたエピソードに見えるが、実は映画の背骨とも言えるのではないだろうか。
この苛酷な環境に押し込められたネイティブアメリカンに目を向けると同時に、贖罪や哀れみに終わらず、そこで生きる強さという人間賛歌にまでつないでいるストーリーは、すごい。
「悲しんで、悲しんで、その上で悲しみに打ち勝て。そうすれば娘の記憶といっしょに生きてゆける。悲しみに打ち勝てなかったら、娘と共に生きることはできなくなってしまうぞ」
なんと達観した強い心なのだろう。
焼肉ドラゴンでも同様のことを感じて書いたが、苛酷な環境に生きる人たちの話を、観ている人が「俺もこういう生き方をしよう」と感じるところまで昇華させられる作家たちを、本当に尊敬します。ありがとう。
CBさんへ
Bloodtrailって、銃で仕留めた獲物を、雪の上を引きずった時にできる「血のワダチ」の事ですが、映画.comの登録をしている時、たまたま手許にあった本の原題なんです。Bloodtrailって、ちょっと猟奇的じゃないですか。自分でも、何でこんなニックネームにしたのかとw