「ヒーローでなく普通にいい奴の夢の挫折と復活に涙が止まらない」泣き虫しょったんの奇跡 Kazu Annさんの映画レビュー(感想・評価)
ヒーローでなく普通にいい奴の夢の挫折と復活に涙が止まらない
本来は違うかもしれないが、映画の中の瀬川・奨励会員は、何処にでもいそうな他人に暖かい良いヒト。だからこそ、退会の恐怖から逃れるため将棋からも女性からも逃げて仲間と一緒に遊んで暮らし、当然ながら三段リーグから上がれず棋士への望みは絶たれる。そのいい奴なんだけど中途半端な努力しかしてない感が、とてもお見事。そう、見ている多くの人間と同類の存在、だからこそ、後半の夢への再チャレンジ、成功を嬉しく思い、涙が止まらなくなった。監督と松田龍平の緻密なプランニングに基づく役作りは、素晴らしいということか。
一方で、鬼の住むところという奨励会の厳しさ・過酷さが、とても良く伝わって来た。今までの、言わば天才ヒーローものの将棋映画では、十分には描かれてこなかった部分である。天才中の天才は別にして、年齢による強制退会によりキャリアゼロ化がちらつけば、誰だって逃げたくなるよねと、納得できた。ここは、やはり監督の奨励会体験者という特異なキャリアが成功要因となったところか。
何故、将棋に再チャレンジする気になったか?これを説得力を持って描くのは難関とおもえるところだが、将棋のライバルであった幼馴染との対局がきっかけでもあり主要因であるという。これを、説得力を持って示した俳優の野田洋次郎。彼の同志感にプラスして楽しさ・面白さをナチュラルに醸し出す存在感は、素晴らしかった。ミュージシャンとしてだけでなく俳優としても眩しい様な才能を感じさせられた。
最後に、これまで見た覚えがなかったこととして、将棋の盤、駒、そして駒を指す指先、高らかな駒音の美しさへの誇りが、これ程に示された映像は無かった様な。確かに、世界に誇れる様な、古来から受け継がれた日本の伝統美と伝統様式がここにはしっかりと或ることを、自分も強く認識させられた。
> 鬼の住むところという奨励会の厳しさ・過酷さが、とても良く伝わって来た
俺もすごいところだとは聞いていましたが、体感できた感じでした。あそこを抜けてきた各プロ棋士たち、恐ろしや…