劇場公開日 2017年12月2日

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「【”フィンランドには、妹の未来がある・・、とシリア・アレッポから逃亡して来た男は言った。”不寛容な思想が広がる世界、市井の人々の無償の優しさの中に微かな希望が仄かに見える作品。】」希望のかなた NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0【”フィンランドには、妹の未来がある・・、とシリア・アレッポから逃亡して来た男は言った。”不寛容な思想が広がる世界、市井の人々の無償の優しさの中に微かな希望が仄かに見える作品。】

2021年8月5日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館、VOD

悲しい

知的

幸せ

ー アキ・カウリスマキ監督の視線は、常に市井に生きる善良な人々を優しく描いている。
  そして、善良でない人の姿も、辛辣なユーモアを絡ませて描いている。
  この稀有な監督の、映画を製作するスタンスにブレはない・・。ー

◆感想<Caution! 内容に触れています。>

 ・今作では、アキ・カウリスマキ監督はフィンランドの中で、静かに生きる人を描く枠を乗り越えて、シリア内戦により、親族の殆んどを失った青年、カーリド(シュルワン・ハジ:シリア人俳優)をメインに描かれる。
 彼は、必死の思いでシリアを妹と脱出するが、途中で逸れてしまい、一人”良い人々の国だ・・”と聞いていたフィンランドに何とか辿り着く。

 ・だが、彼は一年以上、入国審査を待たされた挙句、”アレッポには、危険性はなく保護する必要はない・・”という入国審査官の無情な判断の元、強制送還の判決が下される。
 ー 実際に、2010年以降、欧州では移民排斥運動が盛んになって来ていた。劇中でも描かれる”フィンランド解放軍”の皮ジャンを着た男達がカーリドに対して行う愚かしき行為が描かれる。
 アキ・カウリスマキ監督は、そのシーンを淡々と描きつつも、腹の底では不寛容な思想にフィンランドも侵されている事を怒りを持って、シニカルに描き出している。ー

 ・一方で、行き詰った過去を捨て、新たに人生を始めようとする男、ヴィクストロム(サカリ・クオスマン)が、ポーカーで全財産を掛け、元手を作り、レストランを買い取る姿が、平行して描かれる。
 そして、カーリドとヴィクストロムの出会い。殴り合った後にヴィクストロムが、カーリドに掛けた言葉”働くか?”
 ー ヴィクストロムは、自らの人生の再出発に当たり、同じく人生の再出発を夢見る男カーリドに、手を差し伸べたのである。ー

 ・買い取ったレストランの古参の従業員カラムニウスとニエルヒネン、そして見習いウェイター達の”前オーナーから給料を支払って貰っていない・・”と言う声を聞きつつ、ヴィクストロムは、お堅い役所の監査も乗り越え、寿司店挑戦&失敗にめげず、店を遣り繰りしていく・・。
 ー この辺りは、アキ・カウリスマキ監督の手中の技を楽しむ。ー

 ・そして、カーリドは漸く妹と出会い(そこには、イラク人移民希望者のマグダニクの寛容な行いが大きく寄与している。)、ヴィクストロムも過去の負の状況に向き合っていく・・。

<今作は、世界に広がる不寛容な思想をシニカルに描きつつ、アキ・カウリスマキ監督が、人間の無償の優しさを描いたヒューマンドラマである。
 静かなトーンは、前作までと変わらないアキ・カウリスマキワールドであるが、今作ではそこに、秘めた怒りをそっと忍ばせた作品になっている作品。>

<2018年1月20日 京都シネマにて鑑賞>

<2021年8月4日  別媒体にて再鑑賞>

NOBU