「負の遺産、だと思っていたもの」ガラスの城の約束 つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
負の遺産、だと思っていたもの
「ショート・ターム」が凄く良かったので、ブリー・ラーソン&デスティン・ダニエル・クレットンというタッグに惹かれて鑑賞。
「アメリカ社会が抱える問題」+「登場人物の内面描写」+「自己肯定的な成長」という物語構成は健在。最後の「自己肯定的な成長」っていうのがポイントで、エンディングの爽やかな高揚感に繋がっていく。だから好き。
バッチリメイクにスーツ姿のブリー・ラーソンはとても新鮮。キリッとした姿が似合うけど、良い家に住み、濃い化粧をし、高価そうなスーツに身を固めた姿はヴァイオレットの「見せたい自分」という虚構の姿。
彼女が知り合って間もない人に語る「家族」は偽りの「家族」だ。特に父親・レックスについては「本当のこと」を語ろうとしない。帰りがけ、婚約者に「嘘は私に任せて」と微笑むヴァイオレットは寂しそうでもある。
虚構の父親は生産的な仕事に就かされていたが、本物はどうか。レックスはほとんど仕事に就いていない「自由奔放」「豪放磊落」な人物だ。
「行き着いたところが家」みたいな暮らし。子ども3人を連れて、野宿もする。
母親・ローズマリーは画家で、家事よりも創作が大事。「自由」な両親は子どもを愛しているが、生活力はゼロだ。二人は大人で、自分達が選びとった「暮らし」だが、子どもたちにとっては強制された「自由」。借金取りに追われてレックスの故郷・ウェルチに戻ったことがきっかけとなり、ヴァイオレットは親の抱える問題と、自分の求める世界に向き合うことになる。
父親であるレックスを演じたウディ・ハレルソンが最高に良い。
レックスもヴァイオレットと同じように、親の与えた環境から抜け出そうともがき、志半ばで生まれた場所に戻らざるをえなくなる。
彼の故郷はヒルビリーの集落だ。世間から忘れ去られたような、アウトローな集落。独特の価値観を共有し、近代化とは別の次元で生きている人たち。
レックスもヴァイオレットと同じように、親から与えられた環境に反旗を翻した。レックスの知性は自然を愛しながらも、教育への興味や人間のあり方の多様性を求めたからだ。
先進国アメリカでも、親の教育方針によって学校に行かせてもらえないことはある。神を冒涜する科学の拒否とか、理由は色々だ。
故郷に戻った後に、ヴァイオレットたちが学校に通っている描写があるので、学校自体はあるみたいだが、全員が通っているかは疑問である。
そんな状況に「No!」を突きつけ、放浪の道を選んだレックスだが、親に与えられたことの全てから逃れられず、破滅的な生き方をするしかなかった。
レックスに一番似ていたヴァイオレットは、レックスと同じようにもがき、遂にはレックスが成し得なかった「破滅ではない脱出」に成功する愛娘なのである。
父親が捨てきれなかったもの。父親が求めたもの。一番父親に似ているからこそ、一番反発し、一番共感した。
エンディングで笑うヴァイオレットの表情に、もう寂しさや自分を飾る虚構はない。
最低で最高の父からプレゼントされた思い出は、少し顔を上げればいつでも輝いている。
主役はヴァイオレットだけど、レックスの人生にどうしても思いを馳せてしまうなぁ。繰り返しになっちゃうけど、本当にウディ・ハレルソンが最高だったんだもん。
実話ベースな上に書いたご本人が健在なので、目を瞠るようなドラマチックな演出に欠けるところがちょっと残念。
でも、また新作が出たら観たい監督の一人だ。