「宙ぶらりんの落伍者たち」ハード・コア 因果さんの映画レビュー(感想・評価)
宙ぶらりんの落伍者たち
コメディに見せかけてかな〜り重苦しい映画。
実直すぎるがゆえに、あるいは不器用すぎるがゆえにどこにも居場所がない右近と牛山を唯一受け入れてくれたのが見るからに怪しい世直し団体だったことや、商社マンの賢い弟が介入してくるまで超高性能ロボットの真価を理解できず穴掘りや女遊びばかりさせていたことなど、持つ者持たざる者の格差をこれでもかと見せつけられる。
何もかもが間違った世界の中で、それでも正しさという神話に縋る右近たちだったが、結局世直し団体には裏切られ、弟には先立たれる。ロボットは社会との接点をいよいよ断たれてしまった二人を抱え上げると、遥か上空で自爆という「最適解」を実行したのだった。
二人の死後、実は生きていた弟が現金を大量に詰め込んだスーツケースを持って帰還するシーンはもどかしい。さながら『ミスト』のラストシーンのようだった。
落伍者たちの哀愁譚に句点を打つように「完」という文字が映し出され、映画は幕を閉じたかに思われるが、なんと右近と牛山はまだ生きていた。牛山はどこかの孤島で未開部族の女との間に子供を授かっており、右近はそれを見て「感動した」と言う。
言わずもがな右近の実直さとはある意味で旧弊的なダンディズムと同義だ。右近は50〜60年代の映画に出てくる真面目なお父さんキャラよろしく、性的に堕落した女を嫌い、自分だけをひたむきに愛してくれる女を暴力的に求め続けた。
このダンディズムというやつは心の弱さと寂しさの裏返しなので「お前はハードボイルドっぽくして誤魔化してるだけ」という弟の指摘はかなり痛いところを突いているのだが、指摘されたところで右近の価値観が変わるはずもない。変われるんだったら彼はそもそも社会から完全に断絶されずに済んだはずだし。
こうして元いた社会からはほど遠い孤島の村でも、彼は男と女が順当に交わって順当に子供を産む「正しい恋愛」に対して「感動」するのだろうなと思う。
未開の地で旧弊的なダンディズムに浸りながら社会との接点を回復する…それこそがロボットの弾き出した「真の最適解」だったのではないかと思うと右近がひたすら哀れに思えてくる。いくら未開の地でやっていけても「日本社会」からは戦力外通告されてしまっているわけだし。
ただ、日本より劣った社会単位として孤島の未開部族を登場させるというのはちょっと安易すぎるんじゃないかなという気もする。思えば女性の描き方もかなり簡略化されていたし、そういう周縁的な要素のディテールがもう少ししっかりしてたら稀代の名作になり得ていたように思う。