鈴木家の嘘のレビュー・感想・評価
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右へ左へ揺れながらも力強く前に進んでいく家族の肖像
冒頭は怖いくらい深刻だ。なぜこんなことになったのか。何が原因なのか。どうしてこんな情け容赦のない事態が人生に起こり得るのか。あらゆる意味で観る者に動揺をもたらす場面だ。そこで見せる部分と、見せない部分とが、のちの構成に大きく反映されるとは思いもしなかった。かと思えば、冒頭の深刻さを抜けると今度は岸部一徳の飄々とした佇まいと、長男の不在にまつわる「嘘」をめぐって、映画はスラップスティックにも近いコメディの様相へと振り切れる瞬間がある。誰もが”答え”を求めて、すがるようにして右へ左へと振り子を揺らす。時にその演出が煩わしく、もどかしく感じられたのも事実だが、本作を観終わって感じるのは、その余白を経て大きな蛇行を描くように心の旅路を見つめたからこそ、この映画は他にはない深遠なものを、逃げることなく、ごまかすことなく、掴み取ったのではないかということだ。本作でデビューした野尻監督の今後が楽しみだ。
若き才能とベテラン勢の理想的な融合。木竜麻生の主演作を切望
野尻克己の劇場映画監督デビュー作ながら驚くべき完成度。自身の体験を投影した脚本は、緻密な構成で悲劇と喜劇を二本分観たかのような別格の満足感をもたらす。
引きこもりの長男が自死し、残された家族の喪失感と後悔で切なくさせ、短期の記憶をなくした母のために無理筋な嘘をつくドタバタで穏やかに笑わせる。演出の絶妙なバランス感覚。地球のほぼ裏側のアルゼンチンという突拍子のなさ、ラテンの陽気さもいい味だ。
岸部一徳、原日出子、大森南朋ら演技派がそれぞれ持ち味を発揮しているが、とりわけ長女役の木竜麻生が素晴らしい。グリーフケアの集まりで手紙を読むシーンでの神がかった感情表現は涙なしには見られない。新体操の経験者であり、素敵なパフォーマンスでも魅せる。彼女が本格的に動ける年齢のうちに、そのスキルを活かした主演映画を観たいと切に願う。
全然コメディじゃないよ
コメディタッチな雰囲気の予告だけど、全然笑えないよ。
この映画見た時、涙が止まらず酷いもんだった。
私にとっては全然他人事には出来ず、
こんなに悲しい出来事は受け入れる事なんて出来ないって思いながら鑑賞した。
とてもエネルギーを使うし、良い話でもない。
鈴木家のみんなが幸せであれと思う。
何をどうすることもできないけど、
良い映画だったと思う。
(見たのは数年前)
家族に自殺され残された者をコメディにする意味
コメディではないのかもしれない。
事実をなぞるとまるではたから見たらコメディのように見えるだけとか。
いやそんな事はないだろう。
まず私の持論から。
死体を見て慌てふためいて、取り乱して記憶喪失になるほどの母親を持つ子は、だいたいの場合自殺しない。
だいたいの場合 であって全員ではないが。
人は自分の幸福度を自分の尺度で測るわけで、ホームレスでもなく罪を犯したわけでもなく、衣食住足りていて死ぬ理由などない人、だけれども生きる理由がないと決めてしまった人は死に向かう。
私の知人だった人の中に数人、自殺した人がいる。
彼らはこの現世に自分を繋ぎとめる人間を持っていなかったように思う。
嫌いだなあ、というはっきりした言葉で言い表されるのではなく何かがあまり好まれないオーラを纏っていた。
自分の思う自分の人生と、違ってしまったと思うのか
ゲームのように、一旦クリアしてしまいたくなるのか。
生きるという事への執着が切れてしまう。
妹は確かに、彼にあんな言葉を言うべきではなかった。
死んでもらいたい訳ではなかったのなら。
人はその人の立場になってみなければ、到底わからない苦悩があるのだと、まだ幼い彼女はわからない。
まして、自分の言ってる事が正論であると信じて疑わないならば、言葉は鋭い刃物以上に相手に突き刺さり、
それが きょうだい しかも自分より下の場合、言われた側のなんとも言いようのない悔しさ混じりの憤りは、味わったものにしかわからない感情を生む。
と言った背景の中。
茶化してるように見え、え?って思うとその後すぐにそうではないのだというシーンを繋げる。
目を離すとすぐに死んでしまいそうになる息子とそれを追いかける父親はまるで トイストーリーのフォーキーとウッディだ。でもウッディーは何が何でも諦めずにフォーキーが持ち主にとって如何に重要であるかの生きる意味を説き続ける。
人間である父親は「もう駄目だ俺には無理だ」
って諦めてると言うのに。
(申し訳ない。我が家の車の中で見るDVDが今トイストーリーの1〜4を繰り返し再生されてるので、はからずも何度も何度も熟視する事になってしまっている)
(本当にトイストーリーは良く出来た物語です。
見れば見るほどその出来の良さに感服し、5を心から待ち望んでしまいます。)
大森南朋の役どころは目新しく、こんな演技するのねと思わせられたが、岸辺一徳や 岸本加世子、原日出子などの定番演技の中、私が知らなかった妹の木竜麻生だけが
最初から最後までずっと真剣であり続けているという役回りだ。
その筋を一本通す事でこの映画は成り立っていた。
暗いし重い、
概要の解説にあるような「記憶なくしたお母さん」のくだりにいくまでが長い。
風俗の話とかまではいらんやろ、と。
でもそこからはおもしろみもあり話もわかりやすくよかったと思う。
でもでも、それなのに「悩める人の会」みたいなやつであえて重い話を挟んでくるのも、興ざめにも感じた。
そのあとも重い家族のやりとりもあって、全体的にそこまで明るくユーモアを楽しむってかんじでもなかった。
ま、この作品自体がそういうもので、勝手に期待してた俺の受け取り方が違うのかもしれんけど、お母さんのためにがんばる家族を前向きにウソついて明るく楽しく描いたものかと思ってた。
タイトルにある嘘こそが蛇足。
大森南朋の好演虚しく、その嘘でそれ程面白くはならず、長いその後の方が重要、終盤まで尺を費やした嘘こそが蛇足と気付いた時に白けた。
嘘という小手先の悲喜劇に逃げず、真正面から絶望と再生を書き撮るのが誠意では。
この監督と演者なら出来たのではないか。
笑いもあり
鈴木家のやさしい嘘、良かったです!
テーマが重いので、暗くなり過ぎないよう、ちょくちょく笑いを入れながらも、
軸がブレず、役者さん達も名演で素晴らしい映画だと思います。
同じ境遇の人が見たら、胸が締め付けられ涙止まらないのではないでしょうか・・・
後悔と無念
自殺を考えている映画を見る元気のある人に見て欲しい。
自殺する人は残された家族のこと考える余裕すら無いのだろうけど、
残された家族は忘れたくても忘れられない後悔と無念の思いをずっと抱えながら生きていかなければいけない。
この映画を見ると、大切な家族にこんな辛い思いをさせてはいけないと思う。
素晴らしい
全く期待せずに観た。元々期待値のハードルが低かったかもしれないが、面白かった。長男が自殺するところから物語がスタートする。長男は心に闇を抱え生きていく事に限界を感じ命を絶つ。それをきっかけとして家族全員がそれぞれ心に闇を抱えている事が顕在化していく。心を労りながら自分に優しく生きていく事の大事さを教えてくれる素敵な映画。観るべし。
イヴちゃんに会いたい!犬じゃないよ!
ひきこもりの長男・浩一(加瀬亮)が首吊り自殺にて死亡。それを目撃した母・悠子がショックで倒れ、息子が死んだことの記憶を失ってしまい、父幸男と長女富美が「アルゼンチンで働いている」と優しい嘘をついた。悲しくて重い家族なのに、ユーモアたっぷりに描き、明るく生きようとする姿が素敵。
実際に自殺した者の残された家族は辛いもの。自分も悲しくてやりきれない思いをしているのに、記憶をなくした母のために嘘をつきとおすことで悲しささえも忘れようとする。大切な人を亡くしたとき、数ヵ月後になってようやく泣き崩れてしまうことはよくあることだと思う。ましてや自殺となれば、新聞のおくやみ欄にも投稿しづらいし、ご近所さんのみならず、親戚にさえ真実を言えないことも多い。そういや、ご近所さんが全く登場しないことには違和感があった。重くなるからかな?
ゲバラTシャツ、ビデオメッセージ、手紙代筆の宇野祥平、吸血コウモリ、などなど色んな微笑ましい人物やアイテムが豊富な作品でもあったけど、飛び込み自殺の巻き添えを食ったら賠償請求できるとか、遺骨からダイヤモンドを作れるとかのネタもいっぱい。ちょっと気になったのは浩一の部屋にスネアドラムが2つ置いてあったけど、ドラマーだったのかな~音楽に打ち込んでほしかったな・・・
タイトルなし
長男の自死のショックで記憶を失う母。
母の笑顔を守るために
兄の死を隠す家族達
其々が苦しみ・すがり・答えを求め
巻き起こる混乱を
野尻克己監督が自身の話を元に描いた
監督デビュー作
.
家族が大事だからこそ
向き合いたくないこともある
家族は厄介でも切り離せない
後悔を抱えたままでも
ちょっとだけ
思い荷物を背負っていってもいいのでは…
(監督談)
.
重たい内容ですが
コミカルに描いた部分に救われます
悲しみ・苦しみからの受け止め方
死と向き合い再生への一歩に
優しい嘘
いきなりベビーな展開に身構えた。このベビーなテーマを笑いも散りばめ緩和しながら展開するこのストーリーはいったい何なのだろう。と同時に本作長編デビューの野尻監督はいったい何もの?この無名監督にこれだけのキャストが集まるにはこの脚本ありでしょう。家族の自殺と家族の再生。こんな難しいテーマを優しい嘘をエッセンスにし完璧につくりあげる。
最初、加瀬亮の無駄遣いだろうと思った。最後までみ終えて考え直しました。この名作ならむしろありです。
バランス悪い。。
長男の自殺による死を家族が母親に隠すお話。シリアスで重い内容だけど遊びが多い。
妹を除く全登場人物が天然で少しボケてる。妹が兄をどう考えているのかも、なかなかハッキリしないので、ダラダラと母親に嘘をつく様子を見てるしかない。
いくつかの重要なシーンでドリフターズばりの遊びを入れる意味が分からない。。妹役の木竜麻生が熱演なだけに勿体無い。
素晴らしい映画
たくさんの人と分けあいながら少しずつ悲しみを小さくしていく物語。
この映画は、『人にはみんな事情がある』と気づかせてくれます。
優しい嘘をつくことも、家族だからこそ強い言葉で相手を責めてしまうことも、みんなそれぞれに気持ちや事情があるから。
自殺が珍しくないこの国が嫌になることは多いけれど、『ああ、この不器用な優しさを私は知っている。』『この純粋で静かな思いやりを私は受けたことがある』と、日本人の優しい良いところを、この映画が思い出させてくれました。
なかなかにハードな作品
コメディータッチでもっと進んでいくのかと思ったら、割と身内が自ら命の絶ったあと周りがいかに大変かを淡々と描かれていた。
回想シーンの見せ方もホラー映画のカメラワークで怖かった。視聴後、正直この監督の作品をすぐにまた観たいと思えなかった。しかし、デビュー作品でこれだけ難しいテーマを扱えるなんてすごいなぁと思った。
【”家族の絆とは何であるか”という普遍的な命題を、愛あるけれど、アイロニック感溢れる笑いを通して描き出した作品。】
ー驚くのは、野尻克己監督が(監督デビュー作!で脚本も手掛けている!)自らの辛い経験を基に喜劇タッチでこの重いテーマを、愛ある笑いを塗しながら描き切った点である。ー
・愛する息子(で、引きこもり)、浩一(加瀬亮:弱々しく、何を考えているのか分からない役は、天下一品)がある日、天井から”ぶら下がっている姿”を観て、卒倒し記憶を亡くす母(原日出子)。
そんな母の姿を見て、一致団結した残された家族は、”浩一はアルゼンチンで働き始めた・・”という優しい嘘をつき始める鈴木家の大黒柱、幸男(岸部一徳)と娘(木竜麻生)と頼りないが、ぶっ飛んだ発想を繰り出すおじさん(大森南朋:良い味を出している)達が演じた事柄の数々。
又、彼らを心配するコテコテの名古屋弁(尾張弁)を繰り出す親戚の”仕切りおばさん”(岸本加世子)がグイグイと鈴木家に乗り込んでくる姿がオカシイ。
<上映時間が少し長く感じてしまったところ(簡単に言うと、冗長)は、改善の余地があるが、今作が、野尻克己監督の初作品と言う部分を差し引ても、見応えのある邦画であった。>
<2018年11月16日 ユナイテッドシネマ豊橋にて鑑賞>
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