「深くて、面白くて、振り幅の広い。深凄い作品。」鈴木家の嘘 マツマルさんの映画レビュー(感想・評価)
深くて、面白くて、振り幅の広い。深凄い作品。
シュールなブラックコメディのイメージで前から気になってた作品をやっと鑑賞しました、
感想はと言うとかなり良いです。個人的には足を運んで観に行った甲斐あり。深くて、振り幅の広くて時々面白い。深凄いです。
監督の野尻克己さんはこれが監督デビュー作とは恐ろしい子w
今年の邦画作品としてはジャンルは違うけど「カメラを止めるな!」とタメを張るぐらい。個人的には「万引き家族」よりも好きかもです。
ストーリーは引きこもりの息子の自殺現場を目撃した母親が意識不明になって、1ヶ月半後に意識を取り戻したが息子が自殺をしたと言う部分の記憶がすっぽりと抜け落ちていて、母親に気を使った家族が息子は引きこもりを止めて、今はアルゼンチンで頑張っていると言う嘘をつく。そこから嘘に嘘を重ねていくと言うのが簡単なストーリー説明ではありますが、鑑賞するとそんな簡単な物ではなく、またコメディかと思いきや非常に深くて降り幅の広さに驚きます。
先に細かい事を書くと、霊媒師の所だけはいらないかなと言うのと保険金の件がちょっと放ったらかし。
ソープランド「男爵」のスタッフが心変わりをして幸男に連絡をしたきっかけの件が無い。
母親の悠子に浩一が自殺したのがバレてからがそれぞれの葛藤を描いてはいるけど、少し間伸びしているかな。
イブちゃんとの関わりをもう少し掘り下げて欲しいかなと。
岸部一徳さん演じる父親の幸男が何度もソープランドに足を運ぶのは程良いクッションになっていて笑えるし(特に3度目の来襲でスコップを持っていったのはコントチックで良い♪)、意外とイブちゃんとのエピソードがキーポイントになってたと思えるので浩一が人としての人生を生きていた証となるイブちゃんがどんな女性なのかが気になりました。
それでもラストのイブちゃんに家族で会いに行くシーンだけでも満足感は結構あります。なんか微笑ましい。
引きこもりの息子を溺愛する母親とその息子を腫れ物の様に扱ってしまう父親。引きこもりの兄を恥と感じ、母親からの兄との差に疎外感を感じる娘。
それぞれがそれぞれに自殺した浩一への思いに悩み苦しみます。
最初のシーンから衝撃的に重くて、分かっていてもいきなりヘビーなシーンに重々しい感じがするかと思いきや、いきなり父親のソープランドのシーンに苦笑。その後もいろんなシーンがあるけど伏線の張り方と回収の仕方が上手い。また巧みな台詞回しの言葉の使い方も上手いです。
全体的にユーモア感が漂ってますが、根底は家族の自殺といったベースがあるのでどうしても重くなりがちですが、重くならない所にこの作品の良さがあると思います。
コメディと言うよりかはスラップスティックで程良い軽さを出しているので気分が滅入る事もない。
さっき書きました霊媒師と素麺を吹き出すシーンぐらいがやり過ぎかなぁと思うぐらい。
家族の誰も悪くはないけど、自殺した浩一にそれぞれの罪の意識があって苛まれる。一番悪いのは自殺した浩一だとは思うけど、そんな簡単な物でもない。自殺者が悪いと決めつけるのは簡単でもそれによって家族は一層苦しんでしまう。
他人事ではなくて何時でも身近に起きうる、誰もが持つ心の弱さに真正面から捉えながらもシュールにシニカルに描いている事に感心しながらも鑑賞しながらいろいろと考えさせられました。
キャストは皆良かったんですが、個人的には岸本加世子さんと原日出子さん。木竜麻生さんが良い。
岸本加世子さんはもっと後半でも活躍を見たかったし、母親役の原日出子さんは浩一の死を思い出した途端の表情が物凄くて、ショックから少し老けた様にも見えながら、ホラーの様な怖さもありました。その中でも圧巻は妹の富美役の木竜麻生さん。いろんな心情を描き出してます。
ただ、一点だけ難を言えば…新体操をしている割にはちょっとぽっちゃりなんですよねw 可愛いけど。
北別府の酔っ払った勢いの空気の読めなさが顰蹙を一手に引き受けていて、家族に負担をかけないのも良い。腹立つけどw
とにかく観て良かったと思える作品で133分がそんなに長くない。
今年の邦画作品では屈指の作品で、何らかの賞に絡んでも絶対良いし、絡まないとおかしいと思えます。先日鑑賞した「人魚の住む家」もいろいろと考えさせられましたが、振り幅と作品の完成度はこちらの方が高いかな。
是非機会があれば観て頂きたい。お勧めの作品です。
marken2018様
コメントありがとうございます。
自分も今年公開の邦画作品の中では屈指の作品ではないかと思いました。
ご自身の経験の中と重ねる部分で苦しくある所もあるかと思いますが、良い映画を観れた事を共有出来た事を嬉しく思います。
また、遊びに来て下さい♪
私の今年ベスト作品と思います。頭にガツンと来る映画、自死でなくても、特に家族を若くして亡くしたものにとって「もっと聞いておけばよかった」というような気持になり、苦しくなります。最近考えさせる映画が少ないなかで貴重な作品といえます。