「自分は人間なんだと体感する絵」謎の天才画家 ヒエロニムス・ボス shironさんの映画レビュー(感想・評価)
自分は人間なんだと体感する絵
一度観たら忘れられない。
ドラッグでもキメているのかと思わせる、発想のブッ飛び加減たるや!
とくに中央の絵は、鳥や植物の描写が繊細でリアルなだけに、その異様さが際立ちます。
全体的に優しい色合いでまとめられていてパラダイスっぽいのですが、描かれている人々は淡々としていて体温は低め。
ケツの穴に花をブッ刺しているモチーフなんか、見方によっては二丁目的なユーモアを感じるのですが…いかんせん周りのリアクションが薄いので益々混乱してしまいます。(^-^;
そして、向かって右の絵。これはいけません!!
マッドサイエンティストの研究室のような、人と物との結合。
諸星大二郎の『生物都市』がトラウマなので、どうにも心が波立って直視出来ません。
しかも変な奴に人が食べられてるし〜((((;゚Д゚)))))))
こんな訳のわからない絵の謎が解き明かされるドキュメンタリー映画とあっては、見なければなるまい!
かなりテンション高めで鑑賞しましたが、
いろんなアーティストや研究者がそれぞれの立場からボスを考察するのが、非常に面白かったです。
そして驚いたことに、地域で最も古い教団にボスの名前が残っており、描かれた経緯からも宗教画であることは間違いなさそうなのです!
宗教的なモチーフも多く解説され、絵を開く前の表紙(?)にあたる部分に書かれた言葉からも信憑性が増します。
では、それを前提に向かって左の絵がアダムとイブだとすると…
→自然界を冒涜する人々。無自覚なソドムとゴモラ
→裁き。人間が創り出した物による罰。
そんな絵にも見えてきました。
でも、そんな昔の宗教画が現代の私達をこんなにも引きつけるのは何故なのか?
時代を超えたデザイン性の高さに惹かれるのは間違いなさそうですが、無機質なものに囲まれた生活を送っている現代人からすると、ソドムとゴモラだって自然と融合したパラダイスに見えるからかもしれません。
そして、いろんな人種の人々がフラットに描かれているところも。
もしかすると当時は秩序を乱す良くない事として描かれていたのかもしれませんが、今の私からすると、やはり人種の垣根を超えたパラダイスに見えます。
そんなことを、ああだこうだと考えて連ねていると、映画のラストに衝撃の言葉が!!
悲しきかな、真実の実を食べてしまった人間は、謎を解かずにはいられない。
どうにも一貫性や物語性を探さずにはいられない。
でも、神が創りしものの謎が解ける筈もなく、謎は謎のまま受け入れるしかない。
この絵を見ること自体が、大いなる神を感じる行為にもなっていたとは、恐れ入りました。