「ショーン・ペンが演じたマイナーの魅力」博士と狂人 つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
ショーン・ペンが演じたマイナーの魅力
辞書作りといえば三浦しをん原作の「舟を編む」が思い浮かぶ。本作の中で「舟を編む」のように博士と狂人の二人で用例採集するのかななんてワクワクしてしまったが、そんなお気楽な感じではなくシリアスなドラマ作品だった。
辞書作りとは言葉を伝えることだ。言葉の存在とその意味だ。
何世紀にもわたり使用例を記すことで、言葉の歴史と用法も伝えようとした一大プロジェクトが本作の内容である。
しかしメインとなる物語はショーン・ペン演じるマイナーの過去から現在で、特に未亡人との交流の比率が大きい。
この未亡人との交流を要らないと感じているレビューアーが多いようだが、むしろ非常に重要だ。
先に書いたように辞書作りとは言葉を伝えることだ。しかしその辞書も文字を読めない人間にとっては何の意味もない。
つまりマイナーは、言葉を伝えるということについて一番下から一番上まで助けようとしたのだ。
今の罪だけではなく過去の罪の贖罪としてマイナーが選んだことが、言葉を伝える手伝いだったのである。
統合失調症となり自分がおかしくなっていることを自覚しているマイナーはできる限り全てをかけて言葉を伝える手伝いをしようとした。
彼は間違いを犯したが、その純粋で崇高な魂に応えようとするマレーたちの行動は、人として当然のことのように思えた。
善き人であろうとしたマイナーを見捨ててはそれこそ人でなしなのである。
穏やかなとき半狂乱のとき、かなりギャップのあるキャラクターであったが、名優ショーン・ペンは軽々とこなし、にじみ出る人間性まで表現したように思う。
刑務官のマンシーが作品序盤で同僚を助けてもらったという直接的な理由があるとはいえ、やけにいい人だったのも頷ける。マイナーを見て悪意が芽生えるならば、やはりそれは人でなしだ。
それだけ、ショーン・ペンが演じたマイナーという男は魅力的だったのである。