「「言葉」の重みを見せつけられる2時間」博士と狂人 といぼ:レビューが長い人さんの映画レビュー(感想・評価)
「言葉」の重みを見せつけられる2時間
私の好きなYoutubeチャンネルに「ゆる言語学ラジオ」という言語学を取り扱った教養系のチャンネルがあるのですが、そのチャンネル内で「オックスフォード英語大辞典(以下、OED)」の編纂には殺人犯が関わっていたという話が出てきたことがあります。その際に紹介されていたのが本作『博士と狂人』です。
ざっくりですが事前に映画の内容については知っていたため普通に観ることができましたが、これってタイトルだけ見ると『ジキルとハイド』と勘違いしてしまいそうですよね。間違って鑑賞した方もいらっしゃるかもしれません。多分。
本作を鑑賞した感想ですが、非常に面白かったです。「全ての言葉を収録した辞典を作る」という前代未聞の辞書編纂プロジェクトに参加することになったアマチュア言語学者であるマレーと、彼の辞書編纂に協力していた収容所に収監された殺人犯マイナーの、何とも奇妙な友情と情熱の物語。若干説明不足に感じる部分もないわけじゃないけど、それでも十分に楽しめました。私は事前に内容を知った状態で鑑賞したので、事前知識なしで鑑賞した方の感想も聞いていみたいですね。
・・・・・・・・・・
貧しい家庭環境故に学歴は無いものの、卓越した言語の知識を独学で獲得した異端の言語学者であるジェームズ・マレー(メル・ギブソン)は、「全ての英単語を収録する」という前代未聞の辞書「オックスフォード英語大辞典(OED)」の編纂に携わることとなる。膨大な仕事量と不足する人員で先の見えない作業、マレーのアイディアで一般人ボランティアに協力を仰ぐことで人員不足はある程度解消されたように見えたが、言語学者でない協力者から送られてきた単語カードは使えないクオリティのものばかり。そんな中で、クオリティの高い単語カードを大量に送ってくれる協力者が現れる。それが、元アメリカ軍医で戦争のトラウマによって精神病を患い、殺人の罪で投獄されていたウィリアム・チェスター・マイナー(ショーン・ペン)であった。
・・・・・・・・・・
本作を観ていると、エニグマ暗号の解読に成功した天才数学者アラン・チューリングを描いた名作映画『イミテーション・ゲーム』を思い出します。ネタバレになるので詳細は伏せますが、ストーリーにかなり似ていますね。どちらも第一次世界大戦あたりに活躍した実在の人物の偉業を描いた実話を基にした作品ですし、ラストの展開がかなり似ているように見えました。本作を観て楽しめた方は、『イミテーション・ゲーム』もハマると思いますのでオススメです。
本作は、アマチュア言語学者のマレーと元軍医で知的な殺人犯のマイナーの友情物語と観ることもできますし、彼らの偉業を理解できずに圧力を掛けたりプロジェクトから外そうとする権力に対する反逆の物語と観ることもできます。
私はマレーとマイナーの関係性が凄く好きですね。特にマレーが最初にマイナーに会いに行くシーン。最初はマイナーが受刑者だったことを知り驚くマレーでしたが、話をしているうちにお互いの言語への情熱や知識量に関心し、どんどんと心を開いていく。そして最終的には面会時間が終わるまで、ひたすら二人で言語に関するクイズを出し合ったりして大盛り上がり。「言語」という共通の関心があったことで、あっという間に距離が近づいていくのが上手く描写されていました。
そしてラストシーン、マレーは生涯にわたってOED編纂に携わり、その一生を終えたことが描写されます。しかしマイナーに関してはあまり詳細な描写がありません。というのも、精神病の悪化などが原因で故郷のアメリカに送還されたマイナーですが、OEDに大きな貢献をした彼の偉業は周囲の人にはほとんど知られていなかった故に、孤独に寂しく余生を過ごしたとのこと。ラストに若干の哀愁を残して終わる本作の締めは、個人的には結構刺さりましたね。
非常に面白い映画でした。オススメです!!