劇場公開日 2020年10月16日

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「愛があれば、その先は?」博士と狂人 栗太郎さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5愛があれば、その先は?

2020年10月29日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

良質の実話もの。博士と狂人の二人も偉いが、国の威信をかけた大事業を成し遂げるために、一介の学者に託す方も偉いと思う。あの当時、実力よりも権威主義、伝統主義であっただろうから。
犯した罪の色眼鏡でマイナーをみなかったマレー博士は、それまで偏見の中で生きて来たであろうからいわば当然でもある。だけど、その態度には、マイナーを一人の人間として接するリスペクトがある。夫を失った夫人も、憎らしさを持ちながらもしっかりと敵であるマイナーの心の中身と対峙してくれた。看守(「おみおくりの作法」の彼だ)もまた、職務の役割の節度を保ちつつ、ときに逸脱し、彼らの関係を笑顔なしに温かく見守ってくれた。この、それぞれの関係性が、誠に押しつけがましくなく、謙虚で、でも意志が強く、信頼感の絆でつながっていく様は見応えがあった。

マイナーが、夫人にたいする感情を自らが嫌悪してしまったがためにしでかした、自らへ架した罰を見たときの思い出したのは、鉄門海上人という坊さんのことだ。鉄門海は、江戸時代の庄内地方にいた真言宗の僧侶で、かつての恋人が自分を追いかけて寺まで押しかけて来た時に、その恋人の思いを断ち切ってあげようと同様の行為をした。マイナーも鉄門海も、自戒を込めたその行為には、その痛み同等の愛があったのだろうなあ。

栗太郎