「☆☆☆★★★ 会話劇を中心とし、約600ページ近くにまで及ぶやや長...」友罪 松井の天井直撃ホームランさんの映画レビュー(感想・評価)
☆☆☆★★★ 会話劇を中心とし、約600ページ近くにまで及ぶやや長...
☆☆☆★★★
会話劇を中心とし、約600ページ近くにまで及ぶやや長尺な原作は読了済み。
小説としては良作だとは思うのだが、これをそのまま映像化してしまうと。観客からは「何だこれ!」…と言った声がかなり多く出そうな気はしていた。
曖昧に感じる結末は、読んでいても急にぶった切られる様な終わり方だし。途中で登場しては消えて行くDV男や。最後に突如改心したかの様に描かれているダメ息子等は、小説だから…と納得出来ない事は無いのだが…。
「人と人との温もりを感じたい」
強く心に思いながらも。性格で有り、過去で有り…と。それまで歩んで来た道が影響し、なかなか上手く社会に適応する事が出来ない人達。
原作は、都会の中で孤独に生きる人々を慈しむ様に描写されている。
人生を生きる上で、本当に《友人》と言える人とは巡り会えるのか?
但し、その人がもしも【殺人者】であったならば…貴方は本当に《友人》でいられますか?…と。
【殺人者】で有った過去を持つ鈴木と【傍観者】で有った益田。
《友人》としての繋がりと。友情から生まれる信頼とは?
【家族】で有りたい!と願う白石と。【家族】で有る事を辞めた山内。
彼らの周りに居て、見守る事となる人物には。過去の出来事により失われた【家族】の絆と、その修復の困難さを。
明らかに、鈴木と益田。そして白石と山内は立場は違えども、同じ境遇の人間として対比させる存在と言える。
それらの原作に於ける人間関係は。映像化に辺り、微妙な中途半端感であったり。細かな違和感の様なモノを、読んでいて個人的に少し感じたのですが。製作側も同じ様な考えだったのか?は想像の域を出ませんが。映画は数多くの改変をしている。
大まかなストーリーラインと共に、益田と鈴木の関係性はほぼ原作通り。性格的な面や、周りの人々との人間関係等は多少変えている。
特に益田の元カノでアイドルアナで在る清美は。原作にだけ登場する下衆なジャーナリスト須藤を併せた人物への改変は「あ〜成る程!」と思わせた。
原作との1番大きな違いは、山内と白石の2人の対比。
実は山内の家族の問題は、原作には描かれてはいないが、本来ならば寮長的な位置に居る先輩工場長。
それを、息子の過去の過ちを示すかの様な職業へ。
また、白石の親子関係は原作では娘ではなく息子なのですが。更には家庭環境すら、白石の家庭環境を山内へと大胆に変更した事で、原作では余り目立たない人物だった山内の人間性の肉付けに成功しており。この2人による父親・母親とゆう異なる立場から見た【命の大切さ】を訴える。
多少、原作を読んでいるとやり過ぎにも見えなく無いのですが。原作を読んでいない人には、それほどの違和感を感じさせない改変になっていると思えた。
反面で残念だった箇所もチラホラ。
元AV女優である美代子は、原作では同じ町工場に勤める事務員で、若い2人の関係に《つなぎ》の様な役目を果たす存在。
鈴木と知り合う事に違和感は無いが、映画では知り合ってから恋愛関係に至るまでが、人によってはやや強引に映るかも知れない。
何よりも、元AV女優としての過去により。色々な苦悩を重ねて来た、これまでの人生と共に。今後も続けさまに襲って来るであろう未来に対し。最後には、逃げない気持ちを徐々に持つ。強い意志を感じさせる女性へと、変貌を遂げるのだが。映画では、単に逃げ回る女性になってしまったのは至極残念。
そして個人的に1番残念だったのが。最後に鈴木と益田が、お互いの立場と苦悩を慰める場面。
原作ではこの時に2人は引き戸1枚を隔て、その存在を確認し合う。
お互いに息を殺しながらも、互いの境遇を慈しみ合い。でも裏切りに怒り。憤り。しかし心の奥底からは《真の友情》の芽生えを感じながら…。
嗚呼!それなのに…。
映画ではこの時に、お互いがお互いの心情を思いやりハグをする。
まるで「どうぞここで泣いて下さい」…と言っている様に(他意はない)
その安易に泣かせに来る演出は残念に思う。
この時に、お互いに気持ちをぶつけ合う事が無かったからこそ。最後の手紙に大きな意味が有ったと思えただけに…。
とは言え。【命とは?】【家族とは?】【友情とは?】…と。
多くの面で考えさせられ。ラストシーンは、小説では味わえない温かみと、切なさに包んでくれる良作であると思います。
2018年5月25日 TOHOシネマズ日比谷/スクリーン9