「寄り添う先は」友罪 KinAさんの映画レビュー(感想・評価)
寄り添う先は
事の大小は様々とはいえ、一筋縄ではいかない重いものを背負った人間が何人も出てきて、絡み合うようで絡まず、すれ違うように過ぎていく構成が印象的。
それでも少しずつ進んで生きていく姿を見守るような目線の映画なんだろうなと思った。
安易に全て繋げないことが本作のポイントなんだろうとは思うけど、特別な展開や真実も何も無く拍子抜けしてしまったのは仕方ないかな。
それぞれを描くにしても描写がゆるっとしていて中途半端感は拭えない。
ただ、映画として物語として面白いどうこうは抜きにして色々考える楽しみのある作品だった。
一番感情を持っていかれたのが、轢き逃げで子供を殺した息子を持つタクシー運転手の父親。
罪を犯した息子が幸せになることがどうしても許せずにもがく姿にもどかしい思いになる。
彼が息子との電話越しに「そうか」と返事をしたその声色と表情が一つ壁を越えたような気がして少し涙がこぼれた。
勧善懲悪とはいかない世の中、犯罪者の更生とは何なのかだいぶ考えさせられる。
鈴木(青柳)を擁護する気は全くないけど、外から見ればただの猟奇殺人犯にも人格があるわけで。
中に踏み入れればもしかすると益田のように友達として心を寄せるようになるのかもしれない。
鈴木の「生きてる価値なんて無いと思うのに、心の底で生きたいと強く思っている」という台詞にはグッときた。
片や何の前触れもなく殺される者もいれば、いじめを苦に自殺する者もいるわけで、その対比が強烈。
それにしても、益田が最後まで鈴木に対して友達であるというスタンスを崩さなかったのは面白かった。
罪の意識を持つもの同士、ということなのかな。
最後の益田の叫びに急激に冷めるけど、直後の鈴木の表情で盛り返してくれたので良かった。
更生施設職員の白石先生と鈴木との関係について考えてみた。
過去の振り返りや詳しい説明が無いので私の個人的な見解になるけど、
鈴木は白石先生に特別な感情を抱いていたんだろうなと思う。
母を亡くしてから性的成長が歪んでいたらしいので、マザコンじゃないけどその延長のような形で。
虫からだんだんエスカレートしていった「殺し」というのもある種の欲望の表れで、抑え難いその欲と感情の矛先が施設では白石に向けられていたのではないかと。
鈴木はおそらく創作の絵よりも見たものをそのまま描くスケッチが得意だと思うので、もしかしたら白石を裸にして描いていたのかもしれない。
遊園地で会った時も鈴木からの接触だったようだし、白石は鈴木(青柳)に対する大きな恐れの意識と信じたい思いで葛藤していそう。
そんな中でも実の娘の妊娠・流産があって、この映画の中でも一番振り回されている印象のキャラだった。
一人一人にスポットを当てていくとじわじわ面白くなってくる。
全体的にどんよりした空気が漂っているのが好きで退屈することは無かったけど、色々詰め込んだ結果の描写不足が残念。
益田と鈴木が急に打ち解けていたり、見たいところ見せてくれないのがもどかしかった。
元殺人犯の友達、という点で今年2月後悔の「羊の木」と少しリンクするものがあった。
私は結構好き。