「彼らに安息を、赦しを」友罪 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
彼らに安息を、赦しを
今年公開の邦画の中でも、『孤狼の血』『万引き家族』『散り椿』と共に非常に期待してた一本。
結構鈍い声も多いようだが、個人的には見応えあり、果たしてレビューを巧く纏められるかどうかというくらい色々考えさせられもした。
ジャーナリストの夢敗れ、町工場で働き始めた青年・益田。そこで、同年代の鈴木と出会い、親交を深める。
が、ある事を機に益田は鈴木に疑念を抱く。
彼は、その昔日本中を震撼させた“少年A”ではないのか…?
今も人々の脳裏に刻まれている97年に起きた事件に着想を得た小説の映画化。
あらすじはざっくり上記の通りで、事件そのものより、少年Aの今、直接的に間接的に関わった人々がそれぞれ抱える姿をじっくり描く。
とにかく本作、登場人物各々の視点によって見方、考え方、感じ方がある。
主人公の益田。彼もある罪を背負っている。
少年A事件とは違う別の少年事件の加害者の親。
少年たちに母親代わりとして寄り添う医療少年院職員。
社会の中で、喘ぎ、苦しみながら生きる人々…。
だけどここはやはり、物語の軸である鈴木の視点に絞りたいと思う。
(でないと、レビューが膨らみ過ぎて、とてもとても纏め切れないと思うので)
ズバリ、鈴木は“少年A”なのだ。
人との関わりを避け、無口で根暗で無愛想。ひっそりと生きている。
そう、生きているのだ。今も。
彼は少年少女の命を奪った。
命を奪われた少年少女の人生はそこで閉ざされた。
なのに鈴木は大人になり、生きている。
精神を異常にさせる事があったとは言え、犯してしまった罪は罪。
未成年だろうと大人だろうと関係ない。
その罪に相応しい罰を課し、償わさせなければいけない。
考えさせられるのは、その後。
一度罪を犯した者に、その後の人生は与えられないのか…。
確かに鈴木が犯した罪は許されない。
被害者家族の今も消えぬ悲しみ、怒りを思うと…。
しかし…
何の反省の姿勢も見せないクズ野郎なら別だ。一生檻の中に放りこんでおくか、死で罪を償わせたらいい。
そうでなかったら…?
鈴木も苦しんでいる。
犯してしまった自分の罪を悔いている。
そんな彼には赦されないのだろうか。
友を作る事も。
出会いも。
皆で楽しんだカラオケでの笑顔も…。
大人になった鈴木は今も精神的に不安定な面を見受けられる。その一方、
泥酔してゲロまみれの先輩を介抱する。
仕事中指を切断してしまった益田のその指を拾い、氷水で冷やす処置をする。
親しくなった女性が元AV女優である事がバレ、冷やかされたら、カッとなって庇う。
かつて“悪魔”と呼ばれた少年Aには今、こんなにも人らしい感情が。
これよりも過去の罪を重視しなければならないのか。
彼と親しくなった者たちも同罪なのか。
そんな彼らの平穏を掻き乱す周囲に罪は無いのか。
そもそも、罪には一生苦しめ続けなければならないのか…?
W主演の生田斗真、瑛太の熱演に引き込まれる。
友と罪の間で葛藤する益田役の生田斗真も素晴らしいが、やはり役柄的にも鈴木役の瑛太の方に旨味がある。
陰の中に悲しみ、苦しみを滲ませ、先日見たばかりの『光』の演技にも圧倒させられたが、本作も見事! 年末の映画賞で熱い視線を集めるだろう。
佐藤浩市、富田靖子、夏帆らも極上のアンサンブル。
瀬々敬久は『64』でも事件そのものより、その事件によって人生を狂わされた人々の今を描いていた。
本作でも同手法を用い、少年A事件とは違う別の少年事件の加害者の親のドラマを絡ませ、より多面的に幾重に、明確な答えの無い問い掛けを投げ掛けている。
もし、あなたの前に、かつて罪を犯し、その罪を悔い、今も罪に苦しむ者が居たら…?
その罪を咎めて邪険にするか、人と人同士として友情を差し伸べる事が出来るか。
今一度問い掛けたい。
一度罪を犯した者に、その後の人生を全うに生きる事は赦されないのか。
関わった全ての人々、苦しみから少しでも解放される時は訪れないのか。
別に罪を犯した者の肩を持つつもりはない。が、
彼らの声を聞いて欲しい。
彼らに安息を。
赦しを。