劇場公開日 2018年6月1日

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OVER DRIVE : インタビュー

2018年5月30日更新
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役者バカになれ――東出昌大×新田真剣佑×羽住英一郎監督が示した “夢中”の強さ

「役者バカになれ」。東出昌大新田真剣佑はそんな発破を受け、映画「OVER DRIVE」(6月1日公開)の撮影現場に立った。羽住英一郎監督が指揮する現場で、バカは最大級の褒め言葉だ。東出と新田は自動車競技「ラリー」に命を捧げる兄弟を演じ、互いに「弟役がマッケンで本当に良かった。マッケンにしかできない役」「最高の兄貴。兄弟が欲しくなりました」と称え合う。そして羽住監督は、2人の熱量をあますことなくスクリーンに焼き付けた。彼らが明け暮れた“バカになること”。その真意とは――。(取材・文/編集部、写真/間庭裕基)

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海猿」「劇場版 MOZU」などで知られる羽住監督が、長年夢見てきた悲願の企画。スピカレーシングファクトリーの実直なチーフメカニック兼エンジニア・檜山篤洋(東出)と、無謀とも言える攻めの姿勢を全面に打ち出す天才ドライバーである弟・檜山直純(新田)の汗、涙、苦悩、歓喜、そして絆を描く。

「ラリー」は公道上で行われる自動車競技だ。ラリーマシンが街中をアクセル全開で駆け抜け、タイムを競いあうダイナミックかつ戦略的な競技性が特徴で、欧州では老若男女問わず観戦に訪れる。そんなラリーに魅せられた羽住監督を筆頭に、東出や新田ら熱き闘志を秘めた男たちが結集し、新機軸のエンタテインメント作を創出。3人の言葉の端々からは、今作にかけた“本気”がほとばしる。

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新田は脚本のページをめくるたび、体の底から湧きおこる高揚感を抑え切れなかったという。天才肌かつ激情家の直純に心情を重ね、「実際に映画を見たような感覚がして、すごくワクワクしたんです。それからはもう、『OVER DRIVE』のことしか考えられない。とにかく早く兄貴・東出さんに会いたいし、早く直純というキャラで生きたかった。そう思わせてくれる作品に出合えて、すごく嬉しかった」と熱弁。抜群の手腕と愛情で車を最高の状態に仕上げる篤洋に扮した東出も、その言葉に大きく頷き、羽住監督への全幅の信頼を口にした。

撮影前の数カ月間、キャスト陣には役づくりへの“課題”が用意されていた。東出は、約1カ月にわたり車をいじり倒すメカニック訓練。一方の新田は、世界ラリー選手権ドライバーの肉体に近づくため、約2カ月におよぶ筋力トレーニングを積んだ。

筋トレに次ぐ筋トレで大幅にパンプアップした新田は「自分は人の何倍も自信がない人間なので、どこかで自信をつけなければなりませんでした。それが、今回は外見。できることはすべてやりきり、燃えて、燃え尽き、すべてを出し切りました」と振り返り、「役に近づけることが、とにかく楽しかったんです。こんなに頑張りたいと思えることは幸せでした。なので、撮影終了後の“直純ロス”はすごかった」と追想する。実際に工具を手に車と向き合った東出は、「実際のラリーカーを目の前に『はいバラして。はい組み立てて』と、いきなり突きつけられるんです」と吹き出しつつ、「手元が映っている時だけではなく、本当のメカニックになれ、と。そういう現場が経験できることは、役者として大変嬉しい」と目を細めた。

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苦労どころか、役と一体になれることに歓喜しながら没頭した2人を、羽住監督は「まさに役者バカ」と頼もしそうに見つめる。「バカというのは、思考を停止させることではありません。どれだけ夢中になれるか、です。夢中になっている姿は本当に尊敬するし、『自分にはできない』と思うことを見せる、それが重要。リサーチの過程でたくさんのラリーバカやメカニックバカに出会えました。話が噛み合わないメカニックさんでも、ターボチャージャーの質問になった瞬間、よだれを垂らす勢いで専門用語をしゃべり出して(笑)。そういう部分を、篤洋にフィードバックしています」と述べると、新田は「サイコーですね! この映画、本当にメカニックがかっこいいんです。ずるいくらい。メカニックとドライバー両方に光が当たることが素晴らしい」と身を乗り出した。

「バカ=夢中になれた瞬間は?」と問いかけてみた。自身が写るポスターをしげしげと眺めた新田は、「役のためなら何でもできちゃうんだな、と感じます。今見ても、良い体していると思います」と破顔し、「すべてはこの作品、直純、そして監督のためです! そう思わせてくれた作品、何度も言いますが幸せでした。本当に生きる実感がありました」と繰り返し感謝を伝えた。

物語終盤、優勝争いを演じるスピカを大きなアクシデントが襲う。ラリーカーが走行不能となり、篤洋らメカニックは総力を結集して復旧にあたっていく。東出は、油やタイヤの匂い、そして笑顔と熱気が充満する現場に思いを馳せた。「車をバラすシーン。メカニック一同が車を整備できる腕前に達していたので、映っていないところでも現場が早く進むようにと、みんなが率先して車をいじっていました。『そっち外すぞ。せーの!』。本当にメカニックバカな連中だったんです。僕は先輩でも後輩でも、親しみを込めて“連中”と呼んでいます。あの瞬間は映画を象徴するひと幕だったと思いますし、『連中が好きだ』と思いました」。

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羽住監督をはじめ新田、東出の口ぶりからは、全員一丸となって“バカ”になったことが、本番の演技や演出に想像以上の力を与えていたことがうかがえる。作品と魂が混ざり合い、全身を奮い立たせるのを心地よく感じていた日々。これまでの意識が、変化していくことも感じたという。

羽住監督「僕はいつも、大勢の人が楽しめるエンタメ作品を目指しています。ですが今回、大勢が楽しめるエンタメとは、決してわかりやすいことではなく、『振り切っていること』なのだと気づきました。(今作の)あえて説明を省いた、専門用語だらけのメカニックたちのセリフは、確かにわかりにくいかもしれません。『わかりやすく言いまわすセリフ』という選択肢もありましたが、そうすると、今度はプロに見えなくなってしまう。プロの凄みを表現するため割り切り、伝わると信じて挑戦したことで、その大切さがわかりました」

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新田「作品に出合うことによって、こんなに役者って成長できるんだ。そして成長したい、と思わせてくれる作品に出合えたこと、皆さんに出会えたこと、本当に僕の財産になりました。この作品が生きがいでした」

東出「篤洋の思いが僕に侵食し、『これで良いんだろうか』『芝居は大丈夫だろうか』と、悩みの多い1カ月半でした。そんなときに、背中を押してくれたのは監督であり、共演者だった。こんなにも人に救われたがために、最後までカメラの前に立てたと思う作品は、いままでなかった気がします。200%の自信をもって勧められる作品です。その力の大半は、人からもらったもの。今後も役者をやっていけるのならば、もっともっと人を信頼して、自分の力を出していきたい。そう痛感しました」

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