「パキスタンとアメリカの間で、愛を育む」ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
パキスタンとアメリカの間で、愛を育む
異文化カップルの恋をコミカルに描き、口コミヒット、アカデミー脚本賞ノミネートと言うと『マイ・ビッグ・ファット・ウェディング』を彷彿させるが、本作はプラスα。
パキスタン人コメディアン、クメイル・ナンジアニとアメリカ人の妻エミリー・V・ゴードンの実体験。
2人で脚本を書き、クメイルは本人役で主演。(エミリー役はゾーイ・カザンがキュートに好演!)
結ばれるまで山あり谷ありの、リアル・ラブコメディ!
クメイルの両親は厳格。息子とアメリカに移住し、息子がコメディアンとして働いている事を一応は認めているものの、本当はパキスタンで暮らし、息子には堅実な仕事に就いて欲しかった。
が、結婚相手だけは譲れない。パキスタン人女性と。
何度も何度も偶然を装った見合いを薦め、クメイルはいい加減うんざりしていた。
そんな時出会ったのが、エミリー。
2人は順調に愛を育むが、クメイルは両親にアメリカ人女性と付き合っている事を打ち明けていなかった。
ある時エミリーは、クメイルがパキスタン人女性とお見合いしてる事を知り、激怒。口論になり、クメイルもつい心にも無い事を言ってしまい、破局。
それからすぐ、思わぬ事態が。
エミリーが難病を患い、治療の為に昏睡状態となる。
そこでクメイルは初めてエミリーの両親と会うが…。
…と、ここまでのあらすじを見ると他愛ないラブコメディに実話とは言え難病モノ。
隠し味と言うか旨味となっているのが、人種問題や宗教観。
クメイル自身、パキスタン人であるネタで笑いを取っている。
それがカルチャー・ギャップならまだしも、時々差別/偏見も。
ネタ中、差別的な野次が飛んだり、エミリーの両親と会った際、単なる会話だけれども「9・11についてどう思う?」なんて聞かれたり…。
アメリカ人からすれば、パキスタン人イコールどうしても…と思ってしまうのか。
また、宗教による文化の違い。
幾らアメリカに移住したとは言え、天秤に架けた時、やはり同民族や宗教/文化に傾いてしまう。クメイルが両親の見合いを断れなかった事、エミリーに言い出せなかった事などがそれだ。
それらシリアスなテーマをユーモアに包んで滑らかに語り、とても見易い。
難病や彼女の両親との関係など邦画でもお馴染みお決まりの設定ではあるが、それさえもまた違った切り口で軽快に見せていく。
エミリーの両親とぎくしゃく。
この夫婦自体も仲が険悪。(よくある理由で)
特に奥さんの方が気が強く(ホリー・ハンター、さすがの好助演)、あからさまにクメイルを嫌っている。
別にパキスタン人だからではなく、娘を傷付けた彼を許せない。
しかし、ある事をきっかけに徐々に打ち解け合う。
クメイル自身も彼女の両親と交流する内、一度別れてしまったとは言え、自分にとってエミリーがどれほど大事な存在か改めて気付かされる。
彼女が目覚めたら、もう一度彼女とやり直す事を誓う。
その為には、自分の両親ときちんと話し合わなければ。
勿論、両親は猛反対。と言うか、ほぼ勘当。
しかし、これまで本心も言えず、文化や宗教や両親の言うままだったクメイルが、初めて自分の心に正直に、自由に、自分の生き方を決めた瞬間。
そして、嬉しい奇跡が起きる。エミリーが、遂に目覚めた…!
普通なら、ここでハッピーエンド。が、本作はちと違う。
エミリーからすれば、何故彼が居る? 別れた筈なのに。
しかも、両親と仲良くなっている。
自分が昏睡してる間に何が…?
幾ら両親と打ち解けたとは言え、エミリー本人が彼を許せない。
人種問題/文化の違い、難病、彼女の両親、自分の両親を乗り越えてきたというのに、最後の最後に最大の難関。
彼女とヨリを戻せるのか…?
クメイルとエミリーの“夫婦”の実話なのでオチは決まっているが、ラストシーンも後味良し。
最後まで楽しく、温かく見れる。
彼らと彼らの物語を愛さずにはいられない。