「アカデミー脚本賞ノミネートのオモシロさは確か」ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
アカデミー脚本賞ノミネートのオモシロさは確か
まもなく発表される、アカデミー賞の脚本賞にノミネートされなければ、日本での劇場公開は微妙だったかもしれない。アメリカンコメディは、本国で特大ヒットしても、日本ではビデオスルーされることがあるので、いすれにしても劇場公開されたことは喜ばしい。
本作の隠れたポイントは、アメリカのお笑い業界のフィクサー、ジャド・アパトーのプロデュースによるラブコメディであるというところ。
昨年も、「俺たちポップスター」(2017)や、アパトー自身の監督作品で、女性コメディアンのエイミー・シューマーに主演と脚本をさせた「エイミー、エイミー、エイミー! こじらせシングルライフの抜け出し方」(2017)が日本公開されている。アパトーギャング(=アパトーの影響を受けた人たち)の作品も含め、コアなファンが多い。
アパトー作品はバカバカしいコメディもあるが、それがすべてとは限らず、むしろヒューマンドラマに根差した日常の笑いに根差している。本作は素材がアパトーらしい選択とも言える。
主演するパキスタン出身のコメディアン、クメイル・ナンジアニ本人の実話で、ムスリムの家庭に育ったクメイルが、白人女性と恋に落ちて、文化の違いという障壁を乗り越えていく様を描いている。
結婚に至った妻エミリー・V・ゴードンは脚本家としてクメイルと共同執筆している。単なるラブコメと違い、本人執筆の本人出演というリアリティがバックボーンである。
パキスタンでは親が決めた結婚相手と、見合い結婚するのが当たり前。自由恋愛はもってのほか。もし自由恋愛で結婚をしようものなら、なんとファミリーから縁を切られる。
クメイルは10代で家族とともにシカゴに移住し、コメディアンとして成功する夢を持っていた。舞台パフォーマンスを見にきていた大学院生エミリーと出逢い、付き合いはじめるが、ムスリムの戒律や見合い結婚のことをエミリーには言い出せず、また家族には白人女性と付き合っていることを告白できずにいた。それがエミリーにバレて破局。ところがその数日後、エミリーが原因不明の病で昏睡状態になる。
2人は結婚して今に至っているわけだから、結末は決まっている。
なので、一筋縄ではいかない多民族国家における文化と宗教の違い、純粋な愛を貫けるかという2人の葛藤をハラハラしながら楽しむことができる。
アカデミー脚本賞ノミネートのオモシロさは確かにある。
(2018/2/23 /TOHOシネマズ日本橋/シネスコ/字幕:中沢志乃)