「普遍的なテーマなのに、あまりにも深い」さよならの朝に約束の花をかざろう タミヤ・ユウさんの映画レビュー(感想・評価)
普遍的なテーマなのに、あまりにも深い
今まで観た映画の中で、その映画を思い出すだけで涙が出る事が多分あると思います。
その一つがこの作品です!
どうしてこんなにも涙が出るのか、
どうしてこんなにも考えさせられるのか、
そして、どうしてこんなにもこの作品に惹かれるのか
それらを何個かに分けて話したいと思います。
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①ストーリーと脚本
この話は不老の長寿の一族であるマキアと、母親を亡くした赤ん坊のエリアルを拾い育てていく、何年にも渡る壮大なストーリーです。
今年パルムドール賞を獲った「万引き家族」でも、寄せ集めの「偽物の家族」の人間模様を描く物語ですが、この親子
(マキアとエリアル)も悪い言い方をしてしまえば「偽物の親子」です。
「偽物の親子」の関係性を描いた作品でもあり、その親子の周りの関係も深く描かれている群像劇でもあります。
「ベンジャミン・バトン」のような数奇で壮大な世界観を、美しい2Dアニメで書いています。
それぞれの時が経つことによって変わっていってしまうもの、決して変わらないもの、その一つ一つが日々の出来事を織って糸を紡いでいく「ヒビオルの布」のように丁寧にしっかりと描かれていきます。
そのうえ、時が経つのが早いことを象徴するかのようにスピーディに展開が進みます。
台詞がいちいち良かったです。
特に泣いたのが、終盤でのエリアルがマキアに対して叫ぶある台詞です。
たった一言だけでこんなに感動できるんだと感心しました。
また、マキアはいつまでも15歳の姿のままですが、エリアルは普通の人間なので段々と年を取っていき、次第に追い越してしまうのでそこの重大な部分も真剣に向き合って描かれていて、感動できる部分の一つでもあります。
感動させ過ぎという声も解らなくも無いですが、個人的には全然ありでした。
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②キャラクター
先ほど親子関係とその周りの関係を描いた群像劇と書きましたが、殆どのキャラクターが興味深くて、好きになれました。
個人的にはエリアルの心が変化する模様が凄く好きです。中には思春期のエリアルがよくわからないという声もありますが、小さい時は母親に対して素直だけど、思春期になるとどうしても素直になれなくなってしまう。そして家庭を持ち、親に感謝出来る強さを持てる。それって実は自分達とあまり変わらない気がします。それを描いていて、自分とよく似ていて凄く共感持てました。
マキアも、15歳でエリアルを育て始めるので最初は子供の育て方もわからないほどでしたが、エリアルが年を重ねていくにつれて母親らしくなっていく姿が何とも堪らない気持ちになります。
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③音楽
川井憲次さんの音楽もこの映画の魅力を物語っていて、綺麗で非常に素晴らしいです。曲を聴くだけでも涙が出ます。
そして、最後に流れる主題歌である「ウィアートル」は静かな曲調ながら世界観にバッチリはまっていて圧巻の一言です。
他の映画だと、クレジットの部分で席を離れたくなる時もあるのですが、この歌が素晴らしすぎて一度も離れようと思いませんでした。
また、これは演出部分でもあるのですが、中盤の酒場で店員が楽器を陽気に演奏し、それに合わせてキャラが動くのも好きでした!
またその楽器が独特なんですよ(笑)
実際にあるんでしょうか?
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③映像・演出
演出がとにかく素晴らしいです!
岡田麿里は今回が初監督の作品なのですが、今回の作品は絵コンテ・演出チームに日本のTVアニメを代表する名監督が何人も参加しており、それによって数々の名場面が生まれたと思っています。
ですが、それを集めた岡田麿里自身が一番凄いです!
作画も凄く綺麗に描いていて、特に最初のイオルフの里の背景は思わず息を飲みました。
また、劇中に出てくる中世ヨーロッパの風景も懲りすぎず、なおかつリアルなので、スタジオジブリの作品でも観てるのでは?と思ってしまいました(笑)
前回コメントを書いた際に、色々な人間模様と壮大なストーリーなのに少し短すぎるように感じたのですが、今回観たときは全然感じませんでした。
確かに「展開が早すぎ」とか「映画じゃなくてテレビでやった方が良かったのでは」というコメントも見かけました。
ですが、あれ以上やってしまうと、テーマがぼやけてしまう可能性もありますので、個人的にはあれくらいの長さで全然良かったんだと思います。
自己満足点の-4点の所を強いて言うなら、多少のご都合主義な部分や説明口調になってる所、そして場面の切り替えがぶつ切りになってる所に少し違和感があったくらいです。
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④テーマ
親子の絆の大切さだけで無く、「出会い」と「別れ」、そして「人生」という永遠のテーマを真正面から描いていて、それをファンタジーを通して語っています。
「別れ」というのは人にとって痛みを伴うものです。しかし、「別れ」は「幸せ」でもあることを作品を通じて岡田麿里に教えてくれた気がします。
そして、マキアが自ら紡いだ息子エリアルとの思い出に対して、最後に出した答えは、僕自身強く心に残っています。
過去がどんなにつらくて苦しいものだったとも、それを受け入れる事がどんなに素晴らしい事かをこの映画を通じて知ることが出来ました。
この作品で描いてること、伝えたいメッセージが心を震わされるほどに伝わってきて、改めて岡田麿里氏の凄さを思い知らされました。
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最後に
シリアスで途中辛い展開もありますが、見終わった後は非常に心に沁みて、余韻に浸れる作品です!
女性層には、特に母である方には子供の成長していく姿に感動出来て、そうでない女性や男性には観た後に親に対して「自分を育ててくれてありがとう」と言えるような素敵な作品です。
ただ感動系の作品はどうしても一部の人から嫌悪されがちなので、そういうのがダメな人はあまり期待出来ないとは思います。
ただ、普段アニメを観ない方でもこのアニメは一度で良いから観てほしいです!
ですが、今年は10月末の時点で60本近く映画を観たのですが、僕は未だにこの映画よりも良かった作品に出会えていません。
というよりは、今年はもうほぼ諦めています(笑)
何故ならこれは、
「自分が今までで一番涙を流した映画」
なのですから!
この作品に出会えて本当に良かったです。
誰が何と言おうと、そしてどんなに作品が他人に否定されようと、僕はこの映画を愛し続け、忘れる事は永遠に無いでしょう。