「人種差別はアメリカだけの話だけではない。欧州においても今なお、移民...」私はあなたのニグロではない supersilentさんの映画レビュー(感想・評価)
人種差別はアメリカだけの話だけではない。欧州においても今なお、移民...
人種差別はアメリカだけの話だけではない。欧州においても今なお、移民問題や人種差別から生じた様々な問題に直面している。しかしこの映画を見て改めて思いだされたのは、アメリカという国がそもそも、先住民から略奪した土地に国を作り、奴隷貿易で得た黒人奴隷の労働力を元にして発展してきた歴史を持つ国だという事実。
「世界一の自由と民主主義」を標榜し、事実、あらゆる世界の「世界一」の大国を築いたアメリカ。その華々しさに目を奪われてしまいがちだけど、奴隷解放から150年以上、公民権運動から70年、キングが殺されてから50年以上経ってなお、未だに黒人だという理由だけで、掴まり、羽交い締めにされ、射殺される国。
しかも黒人を撃っているのが市民を守るべき警官だという理解できない世界で、その不条理に抗議の声を上げる人々を守るどころか、テロリストと名指しし、威嚇するような人間が大統領になる国。そういう「世界一」の後進国がアメリカなのだ。
作中、黒人に寛容な白人。黒人を差別しない白人。それは差別ありきの世界で生きる白人の欺瞞そのものだとメドガーエバースは憤る。しかしそもそもアメリカという国自体が白人の欺瞞そのものなのだ。
理想の世界は全て白人のため。白人のためなら平気で黒人を酷使し虐殺する。そのことになんの躊躇いもなく生きてきた国。それがアメリカ。そういう最低な国こそがまさにアメリカという国なのだ。
だからといってこの問題を、アメリカや白人だけの問題と切り捨てるわけにはいかない。冒頭で示したように、現代社会ではさまざまな「分断」が顕在化している。その分断を乗り越えることこそ、「民主的な理想」に生きる人間の務めではないのか。欺瞞とは、正しくないことを知っているからこそ生じる概念である。つまり、欺瞞と自覚する僕らが目指すべき理想はわかっているはずなのだ。そうであるならば、分断と対立の嵐の中、それでも現実を投げ出さず、理想を掲げることこそ求められている様に思う。キング牧師は「わたしには夢がある」と語った。その夢はまだ叶えられていない。でも同じ夢を見ているのなら、希望は必ずある。