劇場公開日 2019年3月22日

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「『E.T.』の頃のような素直な気持ちを心地よく味わえる」バンブルビー 琥珀さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5『E.T.』の頃のような素直な気持ちを心地よく味わえる

2019年3月22日
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鑑賞方法:映画館

冷戦時代、世界は東西の二項対立(アメリカ対ソ連)を軸に比較的簡単な構造で語ることができたのに(その一方でアフリカの飢餓を救うためのライブエイドが行われたり、中東や一部地域でのきな臭い状況はあったけれど、日本を含む他国への影響は今に比べれば限定的だったと思います)、今やグローバル経済の展開や中国の台頭、テロの拡散などで様々な出来事が複雑に絡み合い(ネットワーク化による影響の波及度合いが予測できない)、何がどう自国に影響するのかも分かりづらくなった。
敵か味方か、で単純に判断しようとする軍人的でマッチョな人物の思考が、この映画の中では嫌悪感や違和感よりも寧ろある種の清々しさをもって印象づけられるのは、そんな背景も影響しているからだと思う。

観測技術の飛躍的進歩により、地球外生命体の可能性も、宇宙人がいるのかいないのか、いるのなら友好的であって欲しい、という願望ではなく、「メッセージ」のヘプタポッドのように敵か味方かみたいな単純な割り切りとは全く別次元での科学的可能性・想像で語られることも増えてきた。

グローバル化や多様化に覆われて複雑化した世界でどうにも疲れてしまった人、人間関係の構築(昔は帰属集団のルールに従っていればそれなりに平和だったけれど、昨今は自分探しや自分らしさ、という強迫観念に囚われて却って素直に馴染めない人も多いのではないか)に疲れてしまった人に対して『ET』のような優しさに溢れた映画を、素直に受け入れてもらうためにこの映画が作られたのではないか。
バンブルビーという差別や人種や宗教など物事を複雑化する要素の無いキャラクターを主役に据えることで、真っさらな気持ちで相手と向き合うこと、そしてお互いの信頼と敬意に基づくシンプルな関係性の中で友情が築かれることをベタに描きたかったのではないか。

分かりやすい悪役が、文字通り「ネットワーク化」の技術を人間に見せ付ける場面が、私にとってはとても象徴的な意味のあるものに見えました。

グレシャムの法則