「80’s鬼盛りの傑作ジュブナイル」バンブルビー よねさんの映画レビュー(感想・評価)
80’s鬼盛りの傑作ジュブナイル
1987年のサンフランシスコ、18歳のチャーリーは元飛び込み選手。最愛の父を亡くしたトラウマで飛び込みも出来なくなり、再婚した母と義父、弟との関係もギクシャクしている彼女の唯一の趣味は父が遺したボロボロのコルベットをリペアすること。叔父の修理工場に放置されていたスクラップ同然の黄色いビートルを譲り受けたチャーリーは自宅のガレージに持ち帰り修理を始めると・・・。
舞台が80’sなのでサントラは当然アラフィフ仕様。『夜明けのランナウェイ』とか『ハイヤー・ラヴ』等ありそうでなかったど真ん中の選曲で既に涙腺崩壊。バンブルビーは音声回路が壊れて喋れないことになっているので代わりにカーラジオから流れる歌の歌詞で意思を伝えるのですがそのチョイスもとんでもなくクール。壁に貼ってあるポスター、バスケットに詰め込まれたカセットテープやVHSのラベル、ガレージに遺されたLP、チャーリーが着ているTシャツとタンクトップ、リビングのテレビに映っているテレビゲーム・・・シレッと映り込む小物達が宝石のようにキラキラと輝いています。映像も微かに白く霞んだ80’s独特のトーンが再現されていて驚きの声を出さずに鑑賞することはほぼ不可能でした。
21世紀の青春映画の傑作はほぼ『ブレックファスト・クラブ』の影響下にあると言っても過言ではないわけですが、この映画ほどあからさまにリスペクトを滲ませた映画はないと思います。ジャド・ネルソンのガッツポーズが何度もこすられるのを眺めながらありがとうと何度も呟きながら号泣しました(もちろんですがアノ主題歌もきっちり使われます)。脚本には正直舌足らずな印象はありますが、そんなことは全く気にならない見事な青春映画になってます。
主演のヘイリー・スタインフェルドのキュートさも絶品。『ベアリー・リーサル』、『ピッチ・パーフェクト2』、『スウィート17モンスター』と何かと拗らせたティーン女子を演じさせると世界一の彼女がとにかく全編キラキラしていて、同じくビートルが活躍する『ハービー 機械じかけのキューピッド』に主演していた頃のリンジー・ローハンを連想してしまう快活さも相俟って、年頃の娘を持つアラフィフのお父さんは全員ハートをブチ抜かれることでしょう。
あと全編実写にもかかわらずアニメを観ているような錯覚に陥るのは恐らくカット割りや構図が極めてアニメ的なダイナミズムに溢れているからかと。オートボットやディセプティコンの表情も豊かですしこの辺りは今回監督に抜擢されたトラヴィス・ナイトがアニメーターというのがものすごく大きいと思いますし、このアプローチは大正解、逆にマイケル・ベイのダメダメぶりが図らずも炙り出された感あり。また今回のバンブルビーは蜂っぽさを前面に出したフォルムで格別にカッコいいです。ハチがビートルに変形するわけですので昆虫好きにも堪らないかも。
ということで80’s鬼盛りはアラフォー以下にはさっぱりチンプンカンプンだと思いますが、そんな小ネタを1つも拾えなかったとしても十分面白い傑作だと思います。