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「「家」と「母」と「神」とアロノフスキー」マザー! 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
「家」と「母」と「神」とアロノフスキー
問題作過ぎて日本では上映が決まっていながら取りやめになり、DVDスルーになってしまった(限定上映はあった)という曰くつきの作品のような感じではあるけれど、監督がダーレン・アロノフスキーだと聞けばそこまで驚くことでもない。少なくとも「π」とか「レクイエム・フォー・ドリーム」の頃から既にそういう作風だった。今回もアロノフスキーは、問題作だの賛否両論だのと言われることを自ら想定してこの映画を作っていそうな感じすらある。だからこちらもそのつもりで見ればいいのではないかと思う。
個人的には、単純にホラー映画のセオリーとして、なかなかどうして面白く観ることが出来た。主人公を象徴するような一件の「家」に客人を招き入れることで起こる、現実感のあるような無いような、けれど間違いなく不可思議で怪しい出来事の連続。なんだか映画を観ているだけで、こちらの今にも気が狂い出してしまいそうな、まるで重い眩暈のような物語。それにうまいこと酔うことが出来れば、一気に物語に没入してジェニファー・ローレンスと一緒に怪現象に酔いしれることができる。
個人的な解釈でしかないのだけれど、私はこの作品にはどうしてもクリスチャン的な思想に対する考察を感じずにいられなかった。例えば、キリストの降誕や創世記をホラーとして描くという、聊か不謹慎なことを仮にするとしたなら、例えばこの映画のようになるのではないか?と思ったのである。いかなるものに対しても施しと救いを齎さんとする神のようなハヴィエル・バルデムはしかし一人の人間としてみればあまりにお人好しで不用心で浅はかに見える。そしてまた、彼に救われ施しを受けた者たちは、真から生身の人間でしかなく、人々はバルデムの良心にまるで付けあがるかのように傍若無人な振る舞いを起こし、更には戦争まで引き起こしてしまう。そんな人間に対する風刺が、終盤の大爆発に象徴される過剰なまでの急展開(シーンが一瞬にしてアクション映画のようになったり戦争映画のようになったり、普通の頭ではついていけないレベルの目まぐるしい過剰演出の連続)として描かれたのだとしても解せる話。そうは言っても、あまりにビックリな展開なので、置いてけぼり感は半端なかったものの・・・。
そういえば『ノア 約束の舟』で「ノアの方舟」を描いたこともあるアロノフスキーだけれど、彼って宗教を嫌悪しているのか、宗教を盲信する人を嫌悪しているのか、あるいは彼自身が宗教を盲信しているのか。宗教色の強い映画を撮ってもなお、彼の異端な演出で煙に巻かれていつもよく分からない。どれも正解でどれも違うような気もするし、だからこそ鬼才アロノフスキーなのかもしれない。