「☆☆☆★★★ ドキュメンタリー作品を製作するにあたって1番大切な...」おクジラさま ふたつの正義の物語 松井の天井直撃ホームランさんの映画レビュー(感想・評価)
☆☆☆★★★ ドキュメンタリー作品を製作するにあたって1番大切な...
☆☆☆★★★
ドキュメンタリー作品を製作するにあたって1番大切な事が有ると思っている。
それはドキュメンタリーとして対象になる人・場所・文化等は極力客観的に捉える…と言う事。
そこに主張が入ってしまうと、それはもう【演出】で有り、ドキュメンタリーとは次元の違う作品になって来る。
この作品の様に、世界的な注目を浴びている大地町の様な小さなコミュニティーで、片方の意見だけに耳を傾けるのは、極めて危険な方法論と言わざるを得ない。
是が非か…相反し平行線を辿る双方の主張の場合は特に。
『ハーツ・アンド・マインズ/ベトナム戦争の真実』とゆう素晴らしい作品が有る。
その作品の出現により、ベトナム戦争の終結を早めたとも言われたアカデミー賞を受賞した名作ドキュメンタリーです。
映画はアメリカの陸・海・空それぞれの関係者にインタビューした証言(一部はベトナム人やアメリカの民間人)によって構成され。そこには映画製作者側からの意見は一切存在しない。
しかし、そこから浮かび上がったのは…。
「じゃあ!この戦争によって大量に殺戮され、無惨にも死んでいった人達は何故?何の為に死んでいったのか?」
「一体その責任者は誰なのか?」
…とゆう疑問を投げかける。但し一切の主張をせずに。
大地町に大挙して、環境保護を訴える人々が押し掛ける様になったのは、『ハーツ…』と同じくアカデミー賞を受賞した『ザ・コーヴ』の影響は大きい。
この作品では環境保護を訴える側からの一方的な主張しか存在せず、極めて歪な作品だった。
およそドキュメンタリーとしては絶対にやってはいけない【演出】に満ちていた。
しかもアカデミー賞まで受賞した事で、一気に大地町は全世界に【野蛮な町】として発信されてしまった。
それ以後は延々と不毛な論争が続いている。
佐々木監督はなるべく双方の意見を取り入れる様に努めたと聞く。
日本人で有るが、海外で映画製作をしているだけに。欧米人の感覚も持ち合わせているのは間違いない。
作品を観た限りに於いては、大地町の人達の意見。環境保護を訴える人達の意見。それぞれの主張を同時に作品の中に掬い取っている様に見えた。
そんな中で、今後の在り方も考えさせてくれてもいる。
作品中には、海外からの圧力に対し「伝統を持ち出すのは【逃げ】ている!」との意見が有った。
確かに日本人にアンケートを取れば、凡そ7割位の人達は捕鯨に賛成だろう。
だけど現在では殆どの日本人が鯨を食べない事実も…。
日本人でも大地町での鯨・イルカ漁に反対し、声を上げる人達は存在する。
地元の大地町ですら鯨・イルカの消費量は確かに落ちている。
将来的には鯨・イルカ漁に頼らない(大地町としての)生き方も有るのかも知れない。
作品には様々な人達が登場し、自分の意見を述べる。
大地の漁師・町長・町の人達・子供達。
対するはシー・シェパードの人達や、あくまでも中立を貫くアメリカ人に怪しく暗躍する政治団体等。
ラスト近くに監督自らが、シー・シェパードの代表者にインタビューした一言が映される。
(間違えでなければ)「歩みよれないのですか?」…と。
彼等の活動は、ネットを通し24時間休みなく全世界に、大地町の鯨・イルカ漁の実態を発信し続けている。
それはもう圧倒的な物量と、世界中から送られて来る巨額な献金・鯨やイルカを救いたいとゆう凄い熱意を持って。
対して大地町からの情報発信はとても少ない…と。
今や大地町は【野蛮な町】として全世界に認知されてしまっている。
作品中には、何度となく海外のマスメディアが発信する新聞・テレビ等の映像が示される。
今私は、監督が聞いた「歩みよれないのですか?」とゆう言葉の真意を考える。
世界的な世論は最早、物凄い勢いで海外の意見に傾き始めている…と言えるのだろうか?
「歩みよれないのですか?」
監督自ら大地町に長期密着した事で。大地町の人達は、本当に鯨やイルカに対して感謝の想いを強く抱いている事を知っているのではないかと思うのだ!
おそらくはドキュメンタリー作家として自問自答したのではないのか?…と。
ドキュメンタリーならば中立の立場を貫かねばならない。
その為に自分の意見を言ってはならない。
だからこそ「歩みよれないのですか?」の一言の中に、監督自らの意見を込めたのではないか?…と、感じたのです。
もしも間違いでないのならば。この一言こそが鯨・イルカ漁の是非では無く、私がこの作品に対して一番感慨を持った一言でした。
(貴方達の活動によって)「【大地とゆう小さなイルカ達】を追い込んでいるのではないのですか?」…と。
(2017年9月18日 ユーロスペース/シアター1)