「少女たちの羽ばたき。大好きという気持ちを込めて」リズと青い鳥 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
少女たちの羽ばたき。大好きという気持ちを込めて
吹奏楽に打ち込む女子高生たちの青春を描いた京都アニメーション作品『響け!ユーフォニアム』の完全オリジナル劇場版。
TVシリーズは未見。鑑賞の一番の理由は、『けいおん!』『たまこラブストーリー』『聲の形』の山田尚子監督の新作だから。
なので、話もキャラクターも全く知らず。
しかしちょいと調べてみると、TVシリーズの続きの劇場版というより、これはこれで独立した一本の作品だそうな。
メインとなる登場人物も、TVシリーズではサブキャラ。
言わば、スピンオフ。
うむ、これならTVシリーズを見てなくとも何とか見れそうだ。
北宇治高校吹奏楽部の3年生。
オーボエ担当のみぞれと、フルート担当の希美。
迎える高校最後のコンクールと、親友である二人の関係…。
ベースであるTVシリーズは全国大会を目指す王道の青春ストーリーのようだが、本作はコンセプトを一新。
二人の少女の心情にフォーカス。
となると、少女たちの心の機微を描く事に長ける山田監督の本領発揮。
まるでキャラに寄り添うかのようにアップを多用し、何気ない表情、眼差し、仕草、息遣い、呼吸、間などで彼女たちの心情や距離感をすくい上げる手腕はいつもながら見事。
親友の二人だが、性格は真逆。
希美は明るく活発で、後輩からもとても慕われている。
一方のみぞれは、いつも独りで居て、無口で掴み所が無い。後輩に言わせると、「先輩、つれないですぅ~」。
そんな二人が親友ってのも意外な気もするが、希美はみぞれに気軽に話し掛け、みぞれにとっても希美は唯一親友と言える存在。
確かに仲良しなのだが…、この二人、微妙な距離感を感じるのも事実。仲はいいが、何か隔てた壁があると言うか、一歩懐に踏み込んでないと言うか、本当に本音や心の中全てを開けてない気もする。
また、みぞれは希美に親友以上の“好き”の感情を持っている。別に同性愛って訳じゃないが、この年代の少女たち特有の色んな感情を込めての“好き”の気持ち。
希美の方はどう思ってるか分からないが、みぞれの眼差しは常に希美に注がれている。追い掛けている。合わせている。
が、引っ込み思案な性格故、それがなかなか伝わらない、届かない。もどかしさ、歯痒さ。
それは演奏にも表れてしまう。
コンクールの自由曲で、みぞれのオーボエと希美のフルートの二人だけのソロがある。
これが上手く噛み合わない。
本当に二人は親友なのか…? 仲良く、上手くやっているのか…?
お互いを感じ合い、思い合っているのか…?
加えて、二人の過去のある出来事も。みぞれを吹奏楽に誘ったのは希美だが、一年の時、希美はみぞれに黙って一度辞めた事がある。それが未だに引っ掛かっている。
噛み合わない演奏、微妙な距離感の“仲良し”、相手に合わせただけの進路…。
何処かよそよそしく、二人の関係に非常に大きな陰が…。
みぞれが演奏に心を込められない理由がもう一つ。
自由曲を理解出来ない。
自由曲は童話で、本作のタイトルにもなっている『リズと青い鳥』。
孤独な少女リズの前に、人間の少女の姿に変えた青い鳥が現れ、二人で一緒に暮らす。
いつまでも一緒。
大好き。
しかし、リズはある日、青い鳥の少女を自分の元から放す…。
希美はこの童話は自分たちに似てるという。
即ち、孤独なリズ=みぞれ、活発な青い鳥の少女=希美。
みぞれもこの童話に自分や希美との関係を重ね合わせていた。
だから、理解出来ないのだ。
何故、リズは最後、青い鳥の少女を放すのか…?
大好きなら、ずっと一緒に居ればいいのに…。
自分も希美が大好きで、ずっと一緒に居たい。
でも、今…。
好きという気持ちだけじゃダメなのか…?
ある時みぞれは、童話の真意を知る。
好きだから、大好きだから、放したのだ。
ずっと“私”という鳥籠の中に居ちゃダメ。
あなたはこの広い、自由な世界へ羽ばたいて、あなたの幸せを見つけて。
それが私の幸せでもあるんだから。
離れても、大好きな気持ちは変わらない。
みぞれのオーボエのソロは誰が聴いても変わった。
圧巻で、聴く人を感動させるほどに。
それはまるで、希美に語り掛けてるようだ。
私は希美が大好きだよ。ずっと一緒に居たいよ。
でも、私はもう羽ばたくよ。
希美の事が大好きって気持ちのまま。
みぞれの心からの演奏を聴いて、希美は動揺を隠せない。
そして気付く。
みぞれを鳥籠に入れたままだったのは、羽ばたけなかったのは、自由で無かったのは、寧ろ自分の方だったのでは…?
ずっと自分を追い掛け、自分を慕ってくれていたみぞれが自分から羽ばたこうとしている。
自分は本当は何の才能も無い。置いてきぼり。ちょっとした嫉妬と、もの悲しい寂しさ…。
希美こそがリズで、みぞれが青い鳥の少女だったのだ。
二人はお互いの気持ちを打ち明け合う。
大好きな気持ち。
本音。
お互い、その気持ちを知って…。
アニメーションの枠に留まらない繊細な心理描写は、感情だけではなく思想までにも訴えかけてくるかのよう。
吹奏楽の音にまでも拘った現実パートが瑞々しく情感たっぷりならば、童話パートはカラフルでファンタスティック。
全体的にふわっとした作風で、人によっては好みが分かれたり、共感出来たり出来なかったりの山田ワールド。
かく言う自分もTVシリーズを見てないからかちと他の山田作品ほどではなかったが、それでもそのクオリティーの高さには感嘆させられ、心満たされるほど魅了される。
終わり方も個人的には良かった。
劇的な終わり方ではない。
コンクールや進路など、やるべき事がいっぱい。
その一つ一つを、頑張る。
少女は、羽ばたこうとしている。
もう一人の少女も、羽ばたこうとしている。
笑顔で、大好きな気持ちと共に、この広い空へーーー。