「「映画」と「音楽」のMASH UP」ベイビー・ドライバー 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
「映画」と「音楽」のMASH UP
映画と音楽は密接な関係にあって、音楽があって映画は成り立つものだけれど、ここまで映画と音楽が完全に結合するのを感じたのは初めてじゃないかと思う。それほど、この映画は音楽とがっちり手を組んで作られているし、それこそ「映画」と「音楽」をまるでマッシュ・アップしたかのようなクールな作品に仕上がっていた。近年は映像技術の著しい進化と、シリーズ化による収益が見込めることからアクション大作映画が枚挙に遑がないが、その中でオリジナリティを打ち出すのは容易いことではない。その点でこの映画は、ミュージカル以上に音楽的な映画作品としてその独自性を感じ、なんかもう、作品自体が妙な中毒性を以って迫ってきて、気持ち良くて半ばトリップ状態になってしまった。
主人公のベイビーは、耳鳴りを抑えるために常に音楽を聴いているという設定。それに伴って映画自体も常に音楽が鳴り続け、音楽のリズムと歩調を合わせてストーリーが進み、カット割りやセリフのテンポなどもすべて音楽主導になっている。その音の慣らし方も、シーンによって音の響かせ方やら音圧やらまで緻密に計算されて工夫されていて、映画なのに綿密なマスタリングを施した名盤アルバムのように耳に豊か。そしてその音楽がふと途切れ、耳鳴りの音だけになった瞬間の緊張感に至るまで、作品全体が音楽になっていて、これって即ち「音楽を愛する者のための映画」なのではないか?と思うほど。
映画は音楽との共存だけでなくて、現代的でありながらもどこか70年代あたりの犯罪映画のような風情も漂っていて、全体的に見てもなかなか粋で洒落た感じがある。現代のハードボイルドと呼んではちょっと大げさだし、アンセル・エルゴートはほっぺが柔らかそうでまだちょっと風格に幼さがあるけれども、映画全体の色合いとしては70年代のハードボイルドを現代に換骨奪胎したようにスタイリッシュで、とてもカッコよかった。
終盤で、さすがに出てきたものをとにかく銃で撃ち殺して解決させようとしてしまう大雑把さは、良くも悪くもハリウッドだなぁと思ってしまったけれど、アメコミ映画全盛の現代において、思いっきり小気味良いクールなアクション映画でもって真っ向から直接対決を挑み、それが全く伊達じゃないあたり、なかなか格好いいことするなぁと思った。