「君に生きてほしい」BPM ビート・パー・ミニット KinAさんの映画レビュー(感想・評価)
君に生きてほしい
エイズという重くのしかかる病を患いながらも、「私は生きたい」「君に生きてほしい」と激しく叫び続ける姿にはどうしたって胸を打たれる。
本気でエイズ患者を救い感染拡大を防ぎたいと討論を重ねる彼らには少し驚きも感じた。
若者が集まり主体となって真剣に心から主張し合うというのがなかなか新鮮に思えた。
90年代という時代特有のものかもしれないし、私があまり一つの目的を持った有志団体に触れていないってのもあるけど。
いささか過激なスタイルには疑問も感じるけど彼らからしたら自分や仲間の命がかかっていて、今この時間の中でも病状は進んでいることを考えると納得はできるかな。
しかしどうしても客観的に観てしまうので、明確な非の見えない製薬会社を責め立ててもな…という気持ちにもなってしまう。
代表者の態度はたしかに悪いけど。
実際にあったことをベースに描いているらしいので私の勉強不足でもあったかな…
感情表現の激しいショーンと冷静なナタンの対照的な二人は、その生々しい描写やひとつひとつの表情・仕草から人間味がとても伝わってきてよかった。
病室での手でなぐさめ合うシーンがとても好き。
終わったあとにクスクス笑っちゃうのが本当に可愛くて。
あと学校に突撃した時の唐突なキスシーンは最高に好き。
元々彼氏のいたショーンがどうナタンにぐいっと惹かれたのかは気になるところだけど。
ただ、最後のナタンの行動はかなりショックだった。
おそらく愛し合っていたからこそでありショーン自身が望んでいたことなんだろうけど、行為自体はただの殺人だし、実は彼に暗い裏があったのか!?と勘ぐってしまった。
直後に違う人と寝てるし、苦しそうに泣いてたけど人に縋るにしてももう少しやりようがあったのでは…と悲しくなった。
ショーンの遺灰の使い道について急に話し合い始めるシーンも唐突さと寂しさを感じたんだけど、それも現実だしある意味彼らにとっては当たり前のこと、言い方は悪いけどよくあることなのかなとも思った。
不条理な感染をして、どんなに激情的に声を上げ続けた人も具合が悪ければ気も落ちるし、それでも死してなおグループの活動に一役買って終える彼はかっこよくもあるんだけどやっぱり寂しくもあるな…
エイズに真っ向から立ち向かい啓発した団体の物語であり、ショーンとナタンの恋愛と人生を描いた映画だった。
テーマがテーマだけに相当色々考えてしまい、なんだか普通にストーリーにのめり込んで楽しむことはできなかった気がする。
普段考える機会のない問題やエイズについて改めて意識させられたのは良かった。
クラブシーンでの輝く塵の映像が好き。音楽も好き。